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第42話 食事とセックスト、恋の、話

 こんなに「連休」を楽しみにしたのなんて、学生の時以来、かも。 「……ぁ」  首筋に、寡黙だけれど、何より一番お喋りな唇を感じながら、そんなことを考えた。 「枝島、する、なら、その前にシャワー」 「……」 「枝島?」  今日一日仕事してたからシャワー浴びずには、ちょっと、だろ?  それに短納期事件勃発で本当に忙しかったし。途中から必死すぎて汗でけっこうかいた。もう暑かろうがなんだろうが、枝島の必死さに釣られてこっちも必死だったから。  だから、するなさ、シャワーくらい浴びないと。 「枝、」 「今日は、我慢しようと思って」 「…………へ?」  すごい難しい顔してる、けど? 「あの、明日、デートなんで」 「……」 「たくさん歩くだろうし、だから、治史さんの」 「……」 「かといって、じゃあ加減できんのかっつうと無理なんで」  我慢の顔。  明日、デートだから? 無理させないために? 「っぷはっ、あはは」 「っ、笑わないでくださいよ……手出すのギリ我慢してんのに」  ギリ、なのかよ。 「まぁ、確かに、明日たくさん歩くのは無理になるかも」 「だからっ」 「だから、手、だけ、出して」  だって、ギリ我慢で、ここ、こんななんだろ? 「スルのは明日、な」 「っ」 「今日は、ギリ我慢」  なんか、そのワードにすごくハマった。  すごく。 「俺も、ギリ我慢するから、ここ触って」 「っ」  すごく、キタ。 「あっ……枝島、そこ、擦るの気持ち、ぃ」 「っ」  枝島の部屋に甘ったるい自分の声。  それがなんともくすぐったくて。  そう感じる度に、ビジネスホテルの自室で夜を過ごした回数を数えてる。週の半分をそっちじゃなくて、こっちで過ごすことが多くなることを数えて。 「ここ、すか?」 「ん、そ……ぅ、あっ」  二人で枝島のマンション近くでたまたま見つけた焼き鳥屋で夕食を済ませた。結構美味かったな。でも、焼き鳥屋で腹一杯にするのはちょっと高くつくけど。何せ、二十四の男子なんて、まだまだ食べ盛りだろ。焼き鳥で腹いっぱいにするのはちょっと、な。  けど、あの焼き鳥丼は美味かった。出来上がるの時間かかってたけど、でも、あれ、また食べたいな。  俺、にんじんのお新香が美味いって初めて思ったかも。  枝島もめちゃくちゃ美味そうに食ってた。 「枝島」 「っす」 「……ン」  そっとキスした。  それから、指でそっと、今キスしたばかりの唇に触れる。 「治史さん?」  この唇でさ。 「どうしたんすか?」  食われるようにされるの、好きだな。 「んー……枝島の食い方、好きだなって思って」 「食い方、すか?」 「そ、あっ……っ、食べ方、がさ」  ガツガツって食べるんだ。腹減ったって顔をして、頬にいっぱい飯詰め込んで、もぐもぐって感じに。 「食べ方、で、ぁっ、セックスのタイプがわかるんだって」 「食べ方で、すか?」 「そ、おっ……ぁ、あっ、ぁ」  指に鈴口をグリッと抉じ開けられて、たまらない。剣道、やってた、から? 少し俺よりも硬い気がする指先に責められるのが気持ちいい。 「俺、どんなタイプなんすか?」  枝島の指に感じまくりながら、そっと見つめると、射抜くように俺だけを見て、寡黙な唇が息を乱してる。短く、忙しなく溢れる吐息が、必死そうで。 「美味しそうに食べるのが見てて、あ、あ、っ……ん、気持ちぃ」 「それ、どっちの意味すか」 「あ、食事のっ、ぁっ……意味」 「美味いっすよ。治史さん」 「俺、じゃなく、てっ」  何の話をしてるんだっけ。  食べ方の話?  それともセックスの、話? 「治史さんの食べ方」 「あ、あ、やば、ぃ、それっ」 「キレイっす」 「あぁっ……ん」  枝島のと裏筋擦れ合わせるの、頭の芯とろけそうだ。 「けど、食べ方エロいっつうか。酒とか、なんか、飲む時、コップとかに触れる唇が柔らかくて気持ち良さそうっす。それから、今日、めっちゃ思った」 「あ、ぁ、もっ」 「唇を舐める舌、ピンク色で、綺麗で」 「あ、あぁっ」  今、饒舌に話す唇で、バクバク食べてるのを眺めてると、されたくなる。  あんなふうにガツガツってさ。俺も求めてもらえたら、欲しがってもらえたら、どんなに気持ちいいセックスができるんだろうって思ってしまう。  その唇で美味そうに食べるみたいに、キスを。 「治史さんの食べてるとこ見ると」  したくなる。 「キスしたいってなります」 「……ん、んんっ」  たまらなく、なる。 「ん」 「治史さん」 「あ、も、イク」 「っ」 「イク、イクっ……枝島」 「見てるから」 「あ、あ、あ」 「見せて。貴方がイクとこ」 「あっ」 「見たい」  指が、硬い指先が、また鈴口を責め立てた。 「あぁぁぁぁぁっ」 「っ」  その瞬間、弾けて、達して。 「……あっ」  それからすぐに、枝島の手の中で達した。 「やば……エロ」 「ん」 「ここまで飛んだ」 「あっ」 「貴方のが、ここまで飛んでる」 「ひゃ……あ、う」  その口で頬張ってるところを見ると、食べられたくなる。 「あぁっ……ん、あ、乳首、は、待っ、またイ、ク」  枝島の食い方。  好きだな。  食われるようにされるのも、好き。 「ギリ我慢、きついっすね」  好き。 「ン、これじゃ、さ」 「?」 「明日の夜、抱き潰されそうなんだけど」 「すんません。きっとその時は腹ペコなんで」  枝島のことが――。 「めっちゃするかもっす」  もう。

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