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第48話 一番になりたい

 ――今日は出かけてた。夕食はルームサービスで済ませました。  そんなメッセージをポツリと喋ると、リアクションはいつもよりもグんと少なかった。 「はち」が見たいとわざわざメッセージが返ってきたりもしてた。  浴衣なんてホテルにあると思わなかった。ホテルってナイトウエアみたいなのがあるだろ? 浴衣って旅館っぽいのに。だから、寝る時の服はいらないって枝島、言ってたのか。でも、浴衣で寝るのは得意じゃないんだ。すぐに着崩れるから。  まだなんとなくベッドに絨毯のホテルらしい部屋にガラス張りのバスルームなんてモダンな作りに、この、浴衣っていうのがミスマッチに思えて、なんだか変な感じがするけれど、その浴衣姿でゴロンと寝転がっていた。 「……」  へぇ、本当に「はち」のに、律儀にリアクションしてるんだな。  普通の、それこそ、一日雨だ、とか。晴れだ、とか。全く面白くないことにさえ、ちゃんとリアクションをしている。  相変わらず、発言は一つのまま。  どんないいことがあったのかもわからずじまいのまま。  あ、これ……か。  枝島が気に入ってくれてた「はち」の自撮り。  まるでセックス後の気だるげな感じに見えるように撮った一枚。  全然そんなのじゃないけれど、出張疲れでダラダラしていただけのごろ寝、とある三十路サラリーマンのごろ寝写真なだけだけど。 「それ、すげぇエロいっすよね」 「!」  ウトウトしながら自分のアカウントの中にいた「EDA」のアカウントを覗き見していた。  気が付かないうちに、いつシャワーを終えたのか、枝島がお揃いのシャンプーの香りをさせながら、うつ伏せに寝ころがいた俺の上に覆いかぶさった。 「俺のアカウント見てるんすか?」 「あぁ」 「寝ないんすか?」 「んー……」  枝島が出てくるのを待ってた、なんて。 「? あ、はちさん、なんか喋った」 「?」  はち?  俺?  今、ここでの話かと思って、首を傾げると、枝島が自身のスマホを手に持っていた。 「スマホ、はちさんが喋ると通知来るんで」 「あぁ……」  そっち、か。  俺が今、半分寝ぼけて無意識にいつの間にか何か喋ってたのかと思った。 「さっき、枝島がシャワー浴びてる間に」  シャワールームはカーテンがふたたび下ろされ、中の様子は伺えなくしておいた。  音は聞こえていたけれど、そのシャワーの音が止まったことに気が付かなかったんだ。距離のある移動と、一日中、癒しとかリラックス効果とかがあったとしても、あっちこっちの温泉使って岩盤浴して、それから……で、疲れてウトウトしていた。 「……枝島?」  少し。  不服そうな顔をしていた。 「……なんでもないっす」  だから、スマホをいじる手を止めようとベッドに置く手に枝島の手が重なる。スマホがあって、その上に俺の手と枝島の手が重なっている。  二人でいる時にスマホなんかいじらないで欲しい、ってことかと思った。 「EDA」のアカウントを見ないで欲しい、とか、なのかと。 「リアクション、一番につけてみたかっただけっす」  でも、不服な顔の理由はその二つではなくて。 「貴方の、いっつも速攻でリアクション来るから、俺一番にリアクションつけられたことないんす」  ハートの形をしたマークにはもらったリアクションの数が記されるようになっている。そのマークをつけた一番になりたかったと、ただそれだけに不服そうな顔をした、のか? 「じゃあ……」  そう呟いて、うつ伏せで寝転がったまま、のんびりと文字を打つ。トン、トン、と指先で画面を小さくゆっくりついて。  枝島が重なったところがじんわり熱くなりながら。 「……」  あ、硬い。  ――ルームサービスのハヤシライス、美味しかったけど、腹ペコで写真撮り忘れた。  あ、速攻でハートがくっついた。 「……あざす」  ハートをつけたのは「EDA」だった。 「ぁ……ン」  そこで、さっきと同じ動きをされたら、声が勝手に口から零れ落ちた。  甘い、媚びた声。 「初めて、一番にリアクションできた」 「あぁ……」  さっき、あんなにしたのに。 「もうあっという間に、ほら、すげぇ数のリアクションついてる。リプも」 「あっ」  ――どこのホテル? 行きたい。 「ン」  だって。  ――最近、なんか、彼氏できた?  だって。 「ぁ……ン」 「多分、浴衣姿のはちさんの写真上げたら、すげぇ数のリアクション来そうっす」 「そ、だな」  だって、浴衣ってさ。 「だから、上げないで」  たまらないだろ? 「俺だけ見てたい」 「あ……ン」 「このエロいはちさん」  ほら、ゾクゾクする。 「あっ……すぐに入っちゃ……うっ」 「っ、やば……」  背後から浴衣を捲られて、さっきまで咥えて、奥でしゃぶっていた枝島の硬いをまたズププって挿入されると、とろけそうに気持ちよかった。 「浴衣、エロすぎ」 「あぁ……ン」  ぬぷぷ、って寝たまま後ろから抜き差しされると快感に背中を撫でられたような心地がして、奥がキュッと締まる。 「あ、そこ……」 「っ」  寝バックで喘ぐ後ろ姿を眺められてる。 「あぁ……ン」  視線でも愛撫されて、指先まで痺れるほどに最高の心地良さに浸った。 「あ……」  浸りながら振り返ると、浴衣がやたらと似合っている枝島が俺だけを見つめて、何度も何度も、ペニスで奥も入り口も擦り上げてる。薄く開いた唇からは熱い吐息。浴衣をめくりあげた手は俺の腰をしっかりと掴んで、その強い力にも、熱い指先にも、奥がキュンキュンするほど感じてしまう。  枝島の。 「あ、奥」  浴衣姿、エロすぎだ。 「もっと奥まで」  興奮に身体の芯が、奥が火照ってたまらないから、そこまで来て、この籠った欲を掻き乱して欲しくて、後ろに手を回し、尻を自分で掴んで広げた。 「……来て」  広げながらそうねだって振り返ると齧り付くようなキスをしながら、激しく奥まで犯されて。 「ン、あ……ン」  もういくつリアクションがついてるのかわからないSNSを開いたままのスマホを握りしめて、その舌先にしゃぶりついた。 「……イクっ」  そう、キスの合間に囁きながら、浴衣姿の枝島にしがみついた。

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