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第57話 ほぐれて蕩けて、どうしよう。

 枝島のベッドは滞在しているビジネスホテルのベッドよりも少し柔らかくて、だから、ビジネスホテルの方に寝泊まりする時はちょっと変な感じがするんだ。硬くて、少し驚くというか。  こっちの方が気持ちいいなぁなんて思ってしまう。  少しだけ見慣れた天井と、見て飽きそうにない枝島を見上げて、ふと、気がついた。 「? どうかしたんすか?」  あ、ちょっと笑ったの気が付かれた。 「あ、いや、俺、無意識だったけど、枝島のことめちゃくちゃ見てたなって」 「?」  目力あるな、とか、前髪長い、とか、会議の時いっつも俯いてるけど寝てるのかな、とか。食べる時の表情も、口いっぱいに飯を入れて膨らんだ頬の感じとかも。  よく見てるなって。 「面食い、なのかな」 「……」  そこで枝島が難しい顔をした。それから目元をたまに隠してしまう長めの前髪をかきあげた。  ほら、やっぱり俺はきっと面食いだ。  だって、枝島は――。 「前に製造の女子が越ヶ谷さんかっこいいっつってた」 「……」 「大人で、っつって」 「あぁ!」 「! な、んすかっ?」  丸裸で素っ頓狂な声、ってあまりにもなんか微妙なタイミングだけど、でも、そうだ。それ。そのせいでなんか色々絡まったんだ。 「そうだ! お前がずっと好きだったのって誰だよ!」 「!」 「その製造の女の子と話してたろ。ずっと好きだった人がいて、その人とデートだったのかとか訊かれて。違うって。あれ」  即答で否定してたろ。  しかも強めに。  なんかけっこうへこんだんだ。隠すためだけにしては強い否定だったから。 「あー……あれは」  あれは? 「……」  なんだよ。  なんなんだよ。  誰なんだよ。 「み……」 「み?」  そこで大きな、大きな溜め息をひとつついて観念したように俯いた。  その様子に、俺は身構えて、喉がぎゅっと狭くなる。み、の次に何が来るんだろうって。 「未成年だったんで」  未成年、学生の時の相手、か。恋愛興味無いって言ってのに。 「はちさん、見つけたの、俺がまだ十五の時だったんで」 「……」 「スマホ、親が買ってくれて。そんで偶然見つけて、そっからだったから」 「えぇ! は、はぁ? ちょ、おまっ」 「前に話した時、歳言わなくて、つうかバレたら絶対に治史さんに怒られると思って。だから言わなくて」  ――いつからフォローしてくれてたんだ?  ――……内緒っす。  ――なんでだよ。  あの時、黙秘、した……っけ。 「品質保証とかの課長してる人なら絶対怒るでしょ。もしかしたら、もうそこでアウトかもって思って」  だから内緒に? 「すんません。けど、でもッ、俺マジでっ、」  あぁ、どうしよう。  なんだそれ。  枝島のこと、今、たまらない。  どうすればいいのかわからなくなりそうなくらい。 「ガキだったけどマジなんで」  たまらなく枝島のものになりたくてたまらない。 「……怒り、ます?」 「そうだな」 「っ」 「誰のことを好きだったんだろうって気になって仕方なかったから。一日ずうぅぅぅっと」  そんな目を丸くする? 「話し戻すけど、面食いなのは枝島がカッコイイって意味で、な」  その唇にキスをした。  それから首に腕を巻きつけた。  あとは寝転がって。早く。  早く。 「枝島が好きって意味で、の、面食い」 「……」 「この顔が好きって意味」  早く欲しい。 「俺、自分の顔とか全然興味ないんすけど」  それはけっこうもったいないと思うぞ。 「この顔に生まれてきてよかったって思った」 「っあ」  首筋に枝島の唇が触れただけでとても気持ち良かった。気持ちがトロンととろける。 「あぁっ」  ほぐれてとろけて。 「枝島……」 「っす」 「これ」  そして、手をそっと伸ばした。  指先で触れたのは服越しでも熱が伝わるくらいになってる、それ。  それを「いいこ」ってするみたいに撫でて。 「舐めたい」  そう耳元で囁いた。 「っ、治史さん」  ベッドの上で体勢を入れ替えて、背中を壁に預けるように寄りかかった枝島の足の間に陣取った。 「枝島」 「っ」 「すご……これ、痛そう」 「っ」 「バキバキ」 「だって、そりゃっ」  前をくつろげて下着をずり下げるとすごい勢いでそそり勃つそれが頬に触れる。  その先端に唇でキスをして。 「っ、治史さんっ」  喉を鳴らして、咥えられるのを待ってる枝島を見つめながら。 「ン」  口でそれをゆっくり咥えた。 「ン、ンく……ぁ、む」  口の中、溶けそう。熱くて、硬くて。それを舌の上で擦るように上下させると、ビクビクと跳ねて上顎をなぞった。 「ン」 「っ、すげ」 「はぁっ……ン」  舐めるの、気持ちいい。 「っ、それ、やば」 「ン、ん」 「っ」  ちゅくちゅく音を立てながら先端だけ舌で舐めて、硬くて熱い竿にキスをして、それから根本を指で作った輪っかで扱きながら、中を擦られる時、引っかかるように撫でてくれるのが気持ちいいそこだけを唇の輪っかで小刻みに扱いた。 「っ、治史さんっ」  あとでこれ、こんな太くて熱いのを全部押し込まれることを想像しながら。 「っ」  こんなので奥まで何度も激しくされることを想像しながら。 「っ」 「えらひまの、欲し」 「っ、ヤバっ……っ」  喉奥でも味わいたくて、口いっぱいの頬張った瞬間。 「っっっっ」  その喉奥に放たれた熱があつくて。 「っんっ……ン」  奥が、あとでこれでいっぱいにされる奥が、きゅぅんって紐でぎゅっと結ばれたみたいに締め付けられた。 「あっ、ウソ……」  どうしよう。 「治史さん?」 「あっ……これ」 「やば……エロ」 「っ」  気持ちいい。 「咥えてイッたんすか」 「っ」  好きって自覚しただけで。 「治史さん」  こんなに気持ちいいなんて、どうしよう。

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