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第58話 今度は

 好きだと自覚しただけで感度が跳ね上がる。 「治史さん」 「ン……っ、ん」  キスで絡まり合う舌が、とろけてく。 「こっち、来てもらっていいっすか」 「?」 「俺に寄りかかって」 「っ」 「ぁ……」  恥っず……。 「ちょ、これはっ」  枝島に手を引かれて後ろから抱きしめられた。そのまま枝島に寄りかかりつつ、俺はそこで足を開かされて、その大胆な格好に頬がカァっと熱くなる。思わず閉じようとしたけれど、その太腿の内側を大きな手で撫でられて、足の爪先がキュッとシーツを握った。  恥ずかしすぎる。  年下の枝島にまるであやしてもらうように、こんな寄り掛かって、背後から抱き抱えられるようにされながら、脚を開くなんて。  恥ずかしくてたまらないのに――。 「貴方の背後姿ってほぼないから」  そう囁く声が背後からして、ゾクゾクって、枝島の身体に寄りかかって密着している背中が落ち着かないのに。 「あ……」  羞恥心で頬が熱くてたまらないのに。  視線はローションを垂らして濡れた長い指をずっと見つめてる。早く欲しいみたいに、その指の骨っぽいところを目で追いかけて。 「あっン」  前に、水族館デートをした時に見つけられた、肩にあるらしいホクロ。自分でも知らなかったそこにピンポイントで口付けられて、別にただの肩で、素肌で、なんの変哲もない身体なのに、そこすら性感帯みたい。たったそれだけ、キスだけでも震えるくらいに感じてる。  羞恥心も、理性も、溶けてく。 「あっ」 「もっと足開いてもらっていいっすか」 「ン」  肩に歯を立てられながら、太腿の内側を自分からいっぱいに広げる。 「あぁ」  長い指が孔を撫でたら、孔がきゅっとした。  それでも濡れた指が抉じ開けて、入ってくると、たまらない心地になる。  トロトロに溶けて、中が緩んで、長い指を飲み込んでいく。 「治史さんの髪から俺のシャンプーの匂いがする」 「あ、ン……あぁ」 「すげ……中、熱い」 「あぁっ」  長い指が中の感触を確かめるように撫でて、気持ちいいところを探してくれる。その指に、ねぇ、とねだるように腰がくねって、自分から撫でられたいところを擦りつけた。 「あぁぁっ」  後ろにいる枝島にすがるように手を伸ばして、腕にしがみつくと、耳にゴクリと熱を喉奥に押し込めた音が聞こえた。 「治史さん」 「あ、あっ」  指がずるりと抜けて、また、入ってくる。 「くぅ……ン」  二本に増えた指にとろけたような甘ったるい声が勝手に零れ落ちた。 「耳、真っ赤っす」 「あ、だって、これ」  恥ずかしいのと、もっとやらしくなりたいのと、もっとやらしいことを枝島にされたいのとが、混ざってるんだ。 「あぁぁ」  縋りついていた腕に抱き締めるようにされながら、乳首をキュッと摘まれて、思わず足のつま先がシーツを蹴った。そして、中を長い指に撫でられるとその心地にきゅっと身体が丸まって。 「あンっ」  肩に優しくやんわりと歯を立てられると、腹の奥が切なくなる。 「治史さん」 「あっ……枝島の指」 「気持ちい、っすか」 「ぅ……ン、もっと」 「っ」 「あぁっ」  それ気持ちいい。さっきイッたのに、カウパーがとろりと蕩けて溢れて、自分のそれが濡れていく。伝って、ローションに混ざって、艶かしい音を立てる。 「あっ、ふ……」  クチュクチュ、甘い音と、耳元で聞こえる、枝島の唾を飲み込む音。 「治史さん」 「ン、ンンっ」  呼ばれて振り返ると、口付けられて、乳首を可愛がられながら、一旦抜けた指が。 「ンンンンっ」  太くて。 「んん、ン、ン」  全部されると、もう。 「あ、枝島」 「……」 「すご、ぃ」  欲しくて。 「好き、だ」 「っ」  されたくて。 「あ……」  たまらない。 「も、これ、挿れて……」 「っ」  早く。  そうせっつくようにずっと背中に当たってた、枝島のを身を捩って撫でた。 「けど、まだ……」 「へ……き」  遠慮して、俺のことを気遣ってくれる唇にキスをして。 「早く、欲し、ぃ」  そう囁きながら、先端を掌で包んで、きゅっと握った。くるりと撫でて、枝島をその気にさせようと。 「奥、これで突いて欲しい」  指じゃ届かない奥で枝島の感じたくて、キスをしたままそんなことをねだる。 「ンっ」  ずるりと指が引き抜かれただけで、身体の奥がキュンキュンしてる。 「きつかったら言ってください。んで、ちょっと待ってて、」 「あ、とさ」  ゴムを取ろうする手をそっと止めた。 「治史さん?」 「あ……の、今日、さっ、俺、もうわかってるとは思うけど、SNSのは嘘っぱちで本物はこんなだから」 「? どうしたんすか?」 「だから、その病気とかは持ってない。大丈夫。なので」 「?」 「その、このままはダメ、か?」 「……」 「このまま、したい……元彰(もとあき)」 「っ」  名前を呼んだ、その瞬間だった。 「う、わあああああ! は? ちょ、枝島? 鼻血!」  びっくりした。  だって、まさか、鼻血。  俺は大慌てで近くにあったティッシュで枝島の鼻を鷲掴みにして。 「んが!」  思い切り、首、へし折りそうな勢いで上を向かせた。その拍子に変な声出してたけど、もうそれどころじゃない。 「ちょ、大丈夫か? ちょっと、横になった方が」 「平気っす……」 「いやいや平気じゃないだろ。鼻血」 「平気だって」 「う、わっ」  また俺は叫んで。でも今回は慌てることはなかった。 「……死んでもやめねぇ」  まだ鼻血が鼻のとこ残ってる。擦って拭ったせいで、ほら。  組み敷かれて、たった今鼻血を出してたいくつも年下の男に見惚れていたから、慌てなかった。 「……死なれたら、やなんだけど?」 「死んでも続きするんで大丈夫っす」  それは大丈夫なのか? 心臓止まっても動いてるならゾンビじゃんか。 「っていうか、鼻血は治史さんのせいなんすけど」 「……俺?」  今度は枝島が苦しそうに顔を歪めたまま、項垂れるように前屈みに倒れ込んで、そのまま俯いて俺の肩に額を当てた。 「なんなんすか。ここで名前呼びとか。しかもゴムなしとか、言われて鼻血出さないわけねぇじゃん」 「え? あ、だって、枝島も俺のこと下の名前で呼ぶだろ? だから、そうしようかなと、ふと」 「ふと、で、俺のこと殺さないでください」 「は? おま、何怖いこと言って」  こんな場面で物騒なことを言うなよ。そう驚くと、パッと顔を上げた。 「あとゴムなし」 「それは……」  その表情は、今度は少しむくれてる。 「それから、元彰って」 「?」 「今さっき、また枝島って呼んだ」 「あ、悪い。咄嗟にくせで……元彰」 「っ」  今度は、赤くなった。 「元彰」 「マジで、破壊力ハンパねぇ」  今度は、口の悪い年下の顔。 「言っとくけど、ゴムつけないで生とか多分ヤバすぎて加減できないっすよ」  今度は。 「名前で急に呼ばれて、イキそうになったくらいなんで」 「え? 名前呼ばれるだけで?」 「十五から貴方に恋してんすよ。舐めんな」  今度は。  俺は六つ年下の部下で、寡黙で、表情はやたらとうるさいな元彰が好きで、好きで、たまらなく好きなんだろう。  じっと見つめても飽きることのないくらい。 「うん」 「……」 「で? ゴムなしがいいんだけど」  上司に、とは思えない言葉使いなのに、その無遠慮さがたまらなく嬉しいくらい。 「元彰……続き」 「ゴム、マジでつけないから」 「うん。……それがいい」  よっぽど、好きで好きでたまらないんだろうなって、つい笑いながらそのへの字口にキスをした。

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