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第65話 泡、ふわり
五針も縫う怪我って結構なことなんだからな。
大怪我なんだ。よかったなんて思わないし、普通は痛くて仕方ないんだからな。医者にだって今日は無理するなって言われたんだろ?
「脱いじゃえばいいのに」
「身体洗うのは俺じゃないから、いいんだ。ほら、身体洗うから」
「っす」
髪を洗う時は風呂場用の椅子に腰を下ろしてたから、気分は大型犬のシャンプーをしてやってる感じで可愛かった。でも身体を洗うには座ったままだとやりにくくて。今度は立ち上がってもらうことにした。素直に立ち上がると、背の高い元彰を見上げるような格好になる。もう、大型犬の世話をするというより、襲われる感じがして。
「片手、ほら、上げてろ」
「っす」
「んなっ」
「だって、手、疲れる」
「だからって」
手が疲れる……だろうけれど、でも他に手を置くところはあるだろ。なんで俺の頭上、タイルに手を置くんだ。これじゃ壁と全裸のお前に挟まれてて、すごいぞ。
ほら。
すごい、とても襲われている感が。
「……イーコにしてるんでお願いします」
良い子って。
全然いい子じゃないじゃないか、と、無言で威圧してみたけれど、ちっとも効果がない。むしろもっとって煽るように、その背後に尻尾があるのなら、ブンブンと振りまくっていそうに笑ってる。
「あ、洗うからなっ」
「っす」
ボディ用のスポンジをしっかりと泡立てて、元彰の首筋を片手で押さえながら撫でた。
首の筋肉の筋を撫でからそのまま肩もふわりと泡を塗るように撫でると、目の前で大きく喉仏が上下する。
「肩の触り方がエロい」
「普通だろっ」
「いや、エロいっす」
断言するなって小さな声で反論して、スポンジで肌をくるりくるりと撫でながら、脇も腕も、胸も、腹筋も。そして、がっしりとした腰から前の――。
「っ」
ただ身体を撫でて擦ってるだけなのに。
「やば、もうイきそうなんすけど」
「なんすけどって言われても、さ、触ってないっし、俺、服着てるから! 今、俺に触らないように。これ濡れると寝る時の服がない、んだよっ」
荷物なんて最小限にしか持ってきていないんだ。会食とかがあるかもしれないと持ってきたカジュアルにも使えるジャケットやらがかさばるし。それにビジネスホテルならペラッペラのナイトウエアがあるから、人目なんて気にしない室内はそれでまかなうつもりでいた。
プラス、あまりホテルに帰ってなかったから、洗濯できてなくて。
って、なんでこんな慌ててんだって話だけど。
今日はちょっと、さ。
「じゃあ、濡れないように気をつけます」
大丈夫。そのままじっとしていてくれれば終わる。洗ったのは上半身と腕。脇の下も洗って、そのままスポンジを滑らせて脇腹も。
泡だらけになっていく身体。残りは背中と足と、それから、あとは。
あと、は。
「ここ、洗ってください」
「……ン、ん」
洗う、けど。
でも、そう、じゃなくて。
「あっ……ふ」
キス、は、ちょっと。
「早く洗ってもらってもいいっすか?」
「なら、」
キスを止めろって言おうとした口を塞がれた。
「ん、ふ……っ」
舌で絡め取られて、ゾクゾクしながら、でもきっと長湯は傷口に良くないだろうからと手を止めることなく動かしていく。
あと、は。
「っ、やば」
「んんんっ」
「治史さん……」
あとは、これ。
握ると手の中でビクンと跳ねて、元彰の喉がゴクリと鳴った。
「スポンジじゃなくて手で洗って欲しいんすけど」
「っ」
リクエストに答えてスポンジを持っていない手で、泡だらけの片手でそれを握りしめた。ぬるりと泡をまとわり付かせて、そのまま掌で握ったまま上下に動かす。
「はっ、すげ、手、気持ち、い」
気持ち良さそ。元彰が腰を揺らして、俺の掌の擦り付けるようにそれを動かしてる。
「たまんないんすけど」
「洗ってるだけっ、っ、ン」
洗ってるだけだし、そう言いたいのに、口を塞がれていて、絡め取られた舌はただ気持ちいいばかりで。
「ん、ンっん」
硬い。
ガッチガチ。
扱いてる側なのに。
ゾクゾクするくらい。
ただの掌に反応されて。
「っは、ぁっ」
興奮する。
そして、洗っている間中、ずっと戯れるようにキスで舌が絡まり合うから、口の中から快感が下腹部に滴り落ちていくような感じ。ふわふわの泡がとろりと滑り落ちていくように、身体の奥に柔らかい熱が落ちて溜まっていく。身体の奥のところが。
それから――。
「治史さん、手、背中も洗ってもらっていいっすか」
「! あっ、あ」
言いながら元彰が背中を丸めた。お辞儀をするように腰を折って、前屈みになるとそのままキスで唾液が溢れてる口が乳首を喰む。
「あ、じゃあ、向きっ」
背中をこっちに向けろって言いたいけれど、乳首に歯を立てられて、口から溢れるのは甘ったるい喘ぎ声。
「あ、あ、あ、待っ」
元彰の手はどこも触れずに、俺の服を濡らすことのないようにタイルに両手をついたまま。
触れられてはいないけれど、キスでとろけた身体の敏感なところだけを舌先で突かれる。腹の底がきゅぅんって切なくなっていく。
「あ、元彰っ」
「コリッコリ」
「あ、あぁぁっ」
気がつけば、身体を洗っていたはずの手はただ元彰の肩にしがみついていた。ふわふわ泡のせいで掴めずただ撫でるだけになっているけれど、ちっとも働いていない手。それに――。
「すんません。治史さん」
「あっ……はぁっ」
「髪濡れてたんで」
「あ……も」
濡れ髪のまま乳首にしゃぶりつかれて。
「濡れて貼り付いて、すげぇ」
「も、イきたい」
エロいと呟く唇に噛みついた。
「ンンンンっ」
そして、そのまま自分から激しく舌を絡ませながら、泡で包むように、ガチガチで張り詰めた元彰のを撫でて。
「っ、治史さんっ、イク」
「っン、んぁ……ふ、ぅ……ンンンンンん」
手の中にもっと熱くてとろりとした白が放たれた瞬間。
「ん、ンンンンっ……」
キスでイった。
とろけるようなキスでイって。
「ん……ぁ」
「治史さん……」
「ん」
名前を呼ぶ元彰の唇に唾液の糸が伝って。
「元彰の、欲し……」
喉が鳴るほど、泡だらけのこの熱をふわふわにとろけた奥に欲しくなった。
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