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第77話 気になる背後

 元彰の普段の週末はどんなだったんだ? って訊いたら、少し困ってた。  別に普通っすよって。  面白いことなんてしてないし、特に興味のあることってそんななかったしって、ぽつりぽつりと教えてくれる。でも何かしらしていただろう?  知りたかったんだ。  俺がこっちに来る前と来たあとで少しくらい変わったところはないかなと。  俺が変わったみたいに。  だからちょっとしつこく訊いた。  ――特に何もせずに、はちさんのSNS見たり、動画垂れ流ししてたり。あ、けど。海外ドラマ見てました。アクションバリバリの。  じゃあ、それを一緒に見ようってなったんだ。手巻き寿司は完食。足りるか? って思いながら買った材料はなんということか、ちょうどの適量で。でも、あれだけ買って、それでちょうどって、やっぱり食欲すごいな二十四歳とか、少し思ったりなんかして。 「うわっ、やばいっ! 見つかった」 「っすね」 「ああああ!」  でも海外ドラマってテレビないじゃんって言ったら「はぁ?」って顔された。上司に向かってなんて顔すんだよと笑っちゃうくらいの顔。 「やばいやばい見つかるって」 「っす」 「やばいっ」  いつも一人で見るんだからスマホかタブレットで充分。 「あぁっ!」 「っぷ、治史さん、うるさい」 「お前、上司に向かってうるさいとはなんだ」  言いながらまだ半分くらいは残っている缶チューハイをぐびっと飲んだ。  二人で見るのなら、こうしないと。  元彰の足の間に座り、俺がタブレットを膝に置く体勢で見ていた。ザ、恋人っていう感じの座り方。上司と部下じゃありえない体勢。もちろん友人でもしないような密着度。元彰は俺の肩のところから顔を覗かせて眺めてる。これなら二人で見られるからって。  今、続きを楽しみにしているのは、とある科学捜査研究員がプロファイリングを駆使して難事件を次々に解決していくサスペンスドラマ。  そして今、そのとある科学捜査研究員が自分のプロファイルで見つけた犯人の自宅に一人で潜入したところ。  もうなんで警察官の到着を待っていられないんだ、とか。プロファイルを駆使できるのなら、今の犯人の心理も読もうぜとか、色々ツッコミを入れたくなるんだけど。  でもワクワクしながら、後ろに気をつけろ、前も見ろ、なんてわがままな注文をつけつつ見守ってるのが楽しい。 「あ、見つかった」 「! マジだ!」  うるさくもなる。  意識は気を緩めたら、背後にばっかりいってしまって、ドラマの内容が入ってこなくなる。 「酔っ払い治史さん」 「そんなに酔ってないぞ」 「酔ってるっすよ」  ほら、大変なことになってるんだ。今、まさに潜入しようとしていた捜査官が背後に気を取られていて、わかっていない。実は前方にすでにターゲットが。 「っ……ん、こら」 「……」  腹、撫でられて、タブレットを持つ手がきゅっと力を込める。 「ほら」 「っ」 「酔ってる。めちゃくちゃ肌熱いっすもん」 「……ぁ」  不埒な手がするりと服の中に入ってくる。 「……ン」  少し。 「ぁ……はぁ、っ」 「エロ」  酔ってる、かな。 「ん」  服の中に侵入してきた手に撫でてもらいやすいように胸をそらせて、天井に向かって甘ったるい吐息をこぼしたから。  そして望んでいたのをわかっていたかのように不埒な長い指が乳首を捉えてくれる。キュッと指先で摘まれると満足気な溜め息がまた酔っ払って火照っている喉奥から溢れる。 「ンンっあ、あ、あ」  爪の先で乳首の先端をカリカリと引っ掻かれるとたまらなかった。 「……見ないんすか」 「あ、見る、けどっ」 「犯人に襲われそうっすよ」 「あ、今、俺が、元彰にっ」 「っす」 「んんんっ」  ぎゅっと抓られて、気持ちいい。  そして仰け反って、体重を思い切り元彰の方にかけると、腰にゴリっとしたものが触れた。 「ドラマ見てはしゃぐ治史さんがすげぇ可愛くて、勃った」 「か、わいい、わけ」  ないだろ。  そう言いたいけど。 「あっ……ンンンンン」  可愛いと思ってもらえるようにしたいと、何か、思ってる自分もいた。  だってさ。 「ほら、犯人が」 「ン、元彰」  だって、元彰のことは。 「あとで……観る」  夢中にさせたい、から。 「あとで? 今は?」 「っ、焦らすな。明日だってある、ン、だ、し」 「っ」  そっとタブレットを置いて、上半身を捻ってその懐に潜り込むようにしながら、乳首をいじってくれる服の中を弄る手の邪魔にならないようにしつつ、背後の不埒な部下にキスをした。 「ぁ……ふ」  舌を絡めて。角度を変えながら、クチュ、なんて音をさせる濃厚な口付けをしながら、イタズラを続けてくれる長い指に自分からも胸を押し付けて。 「はぁ、フっ」 「っ」  俺は手を伸ばして、元彰の股間を撫でながら。 「それに、元彰だって見てないだろ」 「っ」 「ここ、ガチガチじゃん……ン」  もう一度濃厚な口付け。 「っ、治史さんの口の中、めちゃくちゃ熱い」 「俺の中もこのくらい熱いかも」 「っ」 「それともそのめちゃくちゃ熱い口の中でしゃぶる?」 「っっ、あの、なっ」  怒った顔をしてた。 「どっち?」  それが可愛くて、耳元で囁きながら、摘まれてる乳首のところ、胸の辺りが昂っていた。

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