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第89話 愛でて
元彰の部屋は駅から少し歩く。
でももう道なら覚えた。そろそろコンビニが見えるはず。あ、ほら、あった。そしたら、その先を右に曲がって、少し進むと見えてきた。
今日、出番のなかった自転車が「おかえり」と言っているみたいに、マンションの小さなエントランス脇にある街灯に照らされていた。
その自転車に見送られながら、郵便受けの中に何もないことを確認した主人が、後ろポケットから鍵を出す。
チャリ、と軽い金属音が共用の廊下に響いた。金曜日の夜とはいえ、すぐ近くに工業地帯のある住宅地ではもう出歩く人もまばらだ。駅前みたいに人はいなくて、静かなものだった。
「課長、最後泣くとは思わなかったなぁ」
部屋の中に入って、そう呟いた。
本当、泣かれるとは思ってなくて、ちょっと面食らった。
もう会わない……こともないと思うんだけど、早速来週の火曜日にオンラインでミーティングあるし。
それに何かあればすぐに飛んでくるし。
こっちとしては元彰に会うための飛行機代が浮いてすごくラッキー。
そんなわけなので、本当に、社交辞令でもなんでもなくいつでもこっちに来る気満々なんだ。むしろ、呼んでもらっていいくらい。
なんて、課長でもある立場上言えないことだけど。
「……そうっすね」
元彰はいつもどおりの無表情でそっけない返事だけをして、冷蔵庫に向かった。
そっけない、ように見えるけど、その理由は知ってるし、元彰がその無表情だったり寡黙だったり、に見えるってだけの話で本当は全然そんなじゃないって、もうわかってるから。真面目で、可愛いくらいに素直で、溶かされそうなくらい熱いのを、もう、わかってる。
多分、さ。
「水、飲みます?」
「あ、うん」
多分、今、無表情な理由はきっと、これ。
「あとで、な。先に……」
キス、したい。
「……ン」
めちゃくちゃに濃くて、甘くて、濃厚なやつ。舌を絡ませて、唾液が溢れるような、やらしいキスを、交わしたい。
「ん、ぁ……ん、ン」
けっこう飲んだんだ。酒。
だから、水で身体の中のアルコールを少し薄めないと。
でも差し出されたペットボトルを受け取ることなく、冷蔵庫を閉めた元彰の懐に潜り込んで、その首にしがみついた
「ン」
キッチンの台に、コトン、とペットボトルを置いた音と、キスの濡れた音がテレビのない部屋に響く。それからすぐに、大きな手が俺の腰をしっかりと撫でて、そして。
「あっ」
そのまま遠慮なしにパンツの中、下着の中へと忍び込む。鷲掴みにされただけでゾクゾクした。
「ぁ……ん」
尻を両手が握るように掴んで、そのまま揉まれると、腰が勝手に揺れて、勝手に元彰の身体に擦り寄る。
「あ」
したくなる。
「元彰」
今すぐ、欲しくなる。
「治史さん」
「んん」
尻を揉まれながら、首を垂れるように、頭を傾げて、元彰の唇が俺の耳の根元に触れる。触れたまま、そこで低音で名前を呼ばれると、たまらなくなるんだ。身体の奥がジリジリ焦げ付くように発情していく。
「あ、シャワー、は?」
「あとで、やって、落ち着いたら、入るんで」
「ぁンン、やって……って、お前、言い方、あ」
「そこ寄りかかっててください」
体勢が入れ替わって、俺は冷蔵庫に背中を預けるように立たされると、低音一つで俺を発情させる元彰が耳元でもう一度名前を呼んでから、その唇で頬、首筋、それから服越しに肩にキスをした。
「あ、待っ」
「待たない」
断言して、その場に元彰が跪いた。
「汚、ぃ……」
羞恥心と。
「あぁっ」
発情。
きっと両方が混ざったまま、下着を下ろされて、元彰の目の前に自分の欲情が形になって晒された。寡黙な唇のすぐ手前に。
思ったのは。
「あ、あっ……はぁ」
しゃぶって、欲しいって思った。
「あ、ン……んんんっ」
頬張られて、元彰の口の中、舌で余すことなく可愛がられて、腰が勝手に揺らめく。たまらなく気持ちよくて、もっと、されたくて、手が勝手に自分の服を捲り上げて、触られたそうに勃って硬くなった乳首を見せつけた。
「自分で、触って」
「ン、んんんっ」
言われるままに元彰の舌に酔いしれながら、自分で乳首を摘むと下腹部が切なげに疼き始める。
「あ、あ、ん……ン、あっ、ン」
気持ち、い。
自分の指なのに、媚びるように乳首がコリコリになっていく。
はしたなく腰を揺らして、欲情しきったそれを元彰の口の中でもたくさん可愛がられて、たまらない、のに。
「ど、しよ、元彰」
四週間で、こんなに。
「?」
「あ、元彰」
「……」
こんなに元彰を欲しくてたまらない身体になってる。
「指、挿れて」
「……」
「前だけじゃ、イけない……こっち、ないと」
元彰にイかされたくてたまらない身体になってる。
でもそれが嬉しい、とか思ってる。
「ぁ、あぁっ」
フェラされて滲んだカウパーで指を濡らして、その指を奥でヒクつく孔に。
「あ、あ、あ、気持ち、イ……イク、あ、待っ、いい、ぁ……」
指が。
元彰の長い指が、我が物顔で俺の中を弄って、クチュリとやらしい音でも俺を興奮させて。
乳首を自分で夢中になって摘んで、転がして。
そんなはしたなく発情してるところを見つめられてることにもまた興奮して。
「あ、イクっ」
中の、イイところを撫でられた瞬間、イッた。
「……ぁ……は、ぁっ」
元彰に、可愛がられて、イった。
「ぁ、も……そんなの吐き出せ、よ」
「や、っすよ。ここから一週間、貴方のこと抱けないんで、味わい尽くす」
「こわ……」
言いながら、今度は俺が跪いた。
「治史さん」
そしてパンツと下着を一緒くたに引きずり下ろして、頬をペチンって叩く、元彰の欲情仕切ったペニスをすぐに頬張った。
「ン」
一週間、これをお預けされるからと、しゃぶりついて。
「あ……む」
次まで我慢できるようにと、思う存分味わうために、舌を絡ませて喉奥でその欲情を感じた。
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