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社員旅行編 5 お仕事、してます。

 一緒には住んでない。  でもほぼ同じだろ。例えば寝室を別々にしている夫婦や恋人同士とほぼ同じくらいの時間は一緒にいる。職場が同じ分、それ以上の時間を一緒に過ごしてる。そのはずなのにまだ足りない、なんて。  俺の部屋を訪れる。  歩いて十分。  そもそも、俺もこっちが地元ってわけじゃない。この会社に就職するために越してきたから、会社から近い場所に住んでいた。地方の田舎。繁華街にも比較的に近く、また住居となり得るエリアもあっちこっちってわけじゃない。必然的に本社工場近くの「住宅地」は絞られてくる。  だから、ほぼ元彰が今暮らしている会社が借りてるマンションは「寝室」と化している。  なのに、まだ――。 「あれ? 今日、枝島いないんすか?……」  村木が出社の朝一番に隣のデスクにいるはずの元彰がいないことをとても不思議そうにキョロキョロとして。どこにもあの仏頂面が見つからないと退屈そうに呟いた。  そうなんだ。  普段なら、朝、俺の次に早く来て、掃除を済ませているはずだけれど、今日はいないんだ。 「あぁ、今日は品管のほうで監査に同行してる」 「えっ! 品管すか?」  村木が素直に驚きながら、ストン、と席に着いた。 「えっ、なんで品管すか?」 「勉強だ」 「へぇ、すげ、いいな」 「村木も行きたかったか?」 「あ、いや、いやー、えへへ、まぁ、勉強にぃ」  いや、そのニヤけた顔、どう考えたって勉強の為とは思えない顔だぞ、って、じっと見つめると、誤魔化していますと顔一面に書きながら笑ってる。 「にしても、この前は生産の方にも行ってたし。その前は設計にもCAD触ったことないからって行ってたし。勉強熱心っすね」 「そうだな」  生産、そうだった。その前は確かに設計にも行っていた。 「けど、そっかぁ、じゃあ今日はひとりで検査頑張ります!」 「あぁ、よろしく頼む」  村木と元彰、年齢が近いこともあってかそれなりに仲が良い。相方、みたいな感じなのだろう。今もその相方がいないことに残念そうにしている。  検査の仕方なんかは元彰のほうが実力も経験も上だからか、よく一緒にやっているところを見かけた。  それもあって少し寂しそうで。 「ほら、村木」 「は、はいっ」  少し心細そうな背中がおかしかった。 「検査するのにボード忘れてるぞ」 「あっ! はい!」  その背中に少し笑って、でも、自分もあんな背中をしてるのかなとふと気が紛れてく。  村木とふたりで留守番、みたいな。  けれど、それはそれでダメだろって、苦笑いになってから立ち上がった。俺は上司なのだから。 「じゃあ、俺が検査見るよ」 「えっ! あ、いやぁ……」  それはちょっと、みたいな。まぁ、俺が一緒だと、これが無駄な動きだ、とか、これ見落としてる、とか、片付けの仕方から何から色々口うるさく言われるからな。 「ほら、行くぞ」 「は、はいっ」  けれど。 「ところで村木、午後の品質定例会議、議事録作成、当番だからな」 「あ!」 「素案作ってあるから」 「あ!」  全部に「すっかり忘れてました」ってリアクションをする村木に笑いながら、元彰がいなくてちょっと退屈している同士、仕事を頑張ろうと、そのウッカリ屋の本社若手の背中をパシッと軽く押し出した。 「……よし。村木、そろそろ昼だから、ここで止めよう」 「っす」  時計を見上げれば、もうすぐランチ休憩の時間になるところだった。 「あ、じゃあ、俺」 「ここまでのデータは俺が入力頼んでおくから、片付けしっかりやっておくように」 「はーい」 「午後、定例会議だからな」 「はーい」  検査室を出て、ふぅ、と一息ついた。  課長職についてからも実務として検査は行う。それでもやっぱり疲れるなぁって、溜め息をつきながら帽子を――。 「今日はありがとうございました」 「あーいや、全然」  声が聞こえた。検査室を出て、デスクに向かう途中の廊下で。元彰の声を。 「どうだった? 監査」 「……勉強になりました」 「支社工場の方は外注監査もしてなかったんだっけ?」 「っす」 「そっか。その割には着眼点良かったよ」 「っす」  褒められてる。品管に。  うちの会社にある品質部、俺はその品質保証課課長。  もう一つ、品質に関わる部分で品質管理課がある。保証課はその名前の通り、製品の品質が基準を上回っていることを保証するのが仕事。管理課は、製品の品質が基準を上回るように、管理をしていくのが仕事。  どちらの課も「品質」を保持するためには必要な部署。製品が幅広いため、二極化を明確にして相乗効果による品質の更なる向上が――というのが会社の理念にある、んだけど。  もちろん、品質管理の課長とは密に連携を取る必要があって、ミーティングもしょっちゅうする。  向こうの課長は俺より十歳上で、一番、よく話をする。  勘が鋭くて、サバサバした性格で、品質管理っていう仕事を任せられている割には、大雑把で大胆なところがある。けっこう、よくあることなんだが、品質を担う特性上、性格が細かくて、完璧主義みたいな性格の人間が多い気がする中で、品管には珍しい人だなって。 「また監査ある時、同行してみる?」 「ぁ……っす」  気に入られた、んだろうな。まぁ、あっちの工場には品管も品証も分けられてなくて、全部の仕事を行うから、うちの本社でどっちも学んだ方がいいけど。 「あ、枝島さん、お疲れ様でした」 「っす」  いいけど。 「じゃあ、また一緒に」 「っす」  今度は女性の声がした。  品管……そういえば、品管にも若手がいる。女性で、新卒で。  なるほど、それで村木は監査に同行羨ましそうにしてたのか。 「あ……久喜課長」 「ぁ、あぁ……お疲れ」  でかい会社だ。品管課長とはよく打ち合わせとかで話をするけれど、品管の若手とはあまり話す機会がなくて、女性が入ったとしか知らなくて。 「あ、久喜くん」 「今日はありがとうございました。彼にとっていい勉強になったかと」 「こちらこそ、とても優秀でいい若手がいるなぁって感心した。品管若手の彼女にもとても勉強になったし」 「ありがとうございましたっ、すごく私も勉強させていただきましたっ」  どんな感じの女性なのか、知らなかった。 「……いえ」  知らなかった。

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