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社員旅行編 11 最高の心地
真夏でも足湯って気持ちがいいんだな。
暑い中で、熱い湯に浸かっても汗だくになるだけかと思ってた。
スタンプラリーでたんまり酷使した足を浸すと、一気に疲れがお湯の中に溶けていく気がしてくる。
「はぁ……」
気持ちい。
二時間、か。けっこう歩いた。
スタンプラリーって案外疲れるものなんだな。やってる時は夢中だったから、あまり疲れを感じなかったけれど、こうして休憩をすると、一気に疲れが出てきて、足が重く感じられる。
その重さがお湯のおかげで軽減されて、ホッとする感じ。
「平気すか?」
思わず零れた俺の溜め息に元彰が小さく笑った。
平気だけど、ちょっとクタクタだって呟くと、また小さく笑って。そんな俺たちの頭上を夏にしては爽やかな風が駆け抜けていく。山沿いだからかな。工場地帯とその工場群をぐるりと囲むように住宅が並ぶような場所じゃ感じることのない清々しい夏の風だ。足をお湯につけているせいもあるのかな。
裸足の心地良さと風の爽やかさに、気持ちがほわりとほぐれていく感じがした。
気持ちいいよ。
元彰のほうは全く疲れてないのか、余裕がありそうな顔をしていた。さすが現役、なんて呟くとまた笑ってる。
検査の仕事はデスクワークもあることはあるけれど、実務がほとんどだ。立ちっぱなしだし、力仕事もある。とくに検査業務が主体の品証なら尚更だ。品管、となると管理がメイン業務だからか、デスクワークと外回り、工場内での監視業務がほとんどになる。力よりも、観察眼かな。必要なのは。
「スタンプラリー、けっこう歩いたっすね」
「んー……」
ホント、かなり歩いたなぁ。
でも楽しかったけど。宝探しみたいで。スタンプが宝って、まるで小学生みたいだけど。
「案外、みんなスタンプラリーやってましたね。俺が同室の奴ら全員やってたんで、むしろ、篭ればふたりになれたかなって」
たしかに。村木もやってたな。スタンプラリー。あと、元彰が同室になった生産部の若手も彼女、かな。同じ生産部の若手女性社員とスタンプの台紙片手に並んで歩いてるのを見かけた。
「生産部の、付き合ってるんすかね」
「あぁ、そうかもな」
若手がけっこうやってたな。
そう考えると品質部長もやってたのすごいな。多分、中堅どころは宴会はまだ始まってないけど、どこか店入って、すでに小宴会でも始めているんだろうな。ちっとも見かけなかったから。それから主婦もしている女性社員も見かけなかった。パートさんも。お土産買ってるのかもな。うちの会社はパートも派遣も同じ会社で働く仲間だからと、役職、職務形態関係なく社員旅行に希望者全員を連れていく。だから、パートさんも参加しているんだ。
お土産か。別に職場の人間は今同じここにいるし。社員旅行のお土産を遥々実家に発送するほどでもないし。特に買うものはないけれど。
でも、明日、時間あるかな。
お土産を買うっていう名目で元彰と買い物したいな。
「治史さん?」
いいな。
俺も同室がよかったな。
ってイベント役員でもないから、どうにもできないことだけど。普通の部下だったら、上司と同室なんて絶対やだろうから。
「眠いんすか?」
「んー……」
社員旅行にいくために少し忙しかったからな。
「肩、貸しますよ」
「んー……」
お湯、気持ちいい。
「どうぞ」
「……」
元彰がスタンプラリーのスポットも記してある温泉街エリアマップを取り出した。その大きな地図が夏の風にバサバサと音を立てる。
「ここ、スタンプラリーの一番遠いとこっす。温泉の端なんで、もうけっこう時間経ってるし、誰も来ないっすよ」
そうかもな。本当にけっこう歩いたし。途中にあったあの階段見たら、怖気付くだろうし。あの階段、きつかったなぁ。何段くらいあったんだろう。帰りは逆に楽だけれど。
――平気っすか?
平気なもんかって言ったら笑ってた。
――手、貸しますよ。久喜カチョー。
珍しくそんなふうに俺のことを揶揄いながら手を差し出す元彰にドキドキした。差し出された手がデカくて、骨っぽくて、繋ぐと、しっかりと包むように俺の手を掴んでくれるから。
「わ」ってなんか、ドキドキした。
この手にいつも抱き締められてるのか、なんてことを実感したりして。
それに手を繋いでからは階段登るのが本当に楽になるんだもんな。まいった。同じ男なのにその力強さに目眩がしそう。
引っ張り上げられてるって感じがしてさ。
恋人だ、なんて思ったりして。
「肩、ドーゾ」
「ん」
ほら、肩、なんか、たくましい。
「人、来たら教えるんで」
「ん」
「目、瞑っててください」
社員旅行だけど。
「今度は会社の旅行じゃなくて、二人で来ましょうね」
ずっとこうしていたいなぁって思った。
心地いい、熱すぎないお湯に足をつけて、爽やかな風に汗が引いていくのを感じながら、夏の日差しをたくさん浴びて、日向の匂いがする元彰の肩に頭を乗せて昼寝。
硬くて逞しい肩。
それからすぐそこで聞こえる優しい優しい低音がいい感じの声。
「寝ちゃいました?」
最高な心地だ。
「……治史」
ずっとこうしていたいって思った。
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