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クリスマス編 4 君がいなくて、恋しくて

「お父さんはクリスマスプレゼント何をお願いしたの?」 「え?」  クリスマス直前、ショッピングモールはもうキラキラピカピカ、入ってすぐの大きなホールにそびえたつクリスマスツリーに伊都が歓声を上げた。もちろん、ジャンパーなんてすぐに脱いで、長袖Tシャツでも暑いのか、腕まくりをした手をそのクリスマスツリーへ伸ばす。  クリスマス、プレゼント……かぁ。  もうずっとそんなの考えてなかったなぁって。それが習慣になっちゃってたっていうか。去年まではもう自分が欲しい物なんて思いつきもしなかった。伊都が笑顔になれる日、っていうくらいで。  でも、今は、あったりする、かな。  ふと前を見ると、デート中のカップルが通り過ぎた。楽しそうに笑い合いながら手を繋いで歩いている。 「おとおおおさああああん! 見てみてー!」  呼ばれて覗き込んだら、枝先にぶら下がっている金色のボールの中に鼻が伸びた伊都が映っていた。伊都と、俺が。 「映ってる」 「……うん、そうだね」  頷いて、変な顔をしたお互いに笑った。 「お父さん! どうしようか!」 「んー」  明後日、睦月が帰ってくる。イヴ直前。土曜の今日、買い物をして、日曜は部屋の飾りつけ。おかえりなさいとクリスマスを兼ねたパーティー。 「伊都は何食べたい?」 「んー、やが付くご飯!」 「野菜炒め?」  まさかの? クリスマスパーティーなのに? ちょっと変じゃない? でも、睦月が帰ってくるのだから。 「でも睦月のおかえりなさいってパーティーだから、野菜炒め!」 「そうしよっか」 「うん!」  それとワインも。 「お父さん! ケーキは?」 「ケーキは当日」 「はーい」 「ほら、買い物買い物」  急いで方向転換をした。  だって、すぐそこに「スライム五十色セット」が売っていたから。睦月と相談して、睦月が買っておいてくれたんだ。二人で相談して伊都へのクリスマスプレゼントを決めたんだよ。ここで売ってるって知られないほうがいいかなって。背中を押して、雑貨屋のほうへと伊都を急かした。  早く帰って来ないかな。  電話はあまりかかってこなくて、忙しいんだと思う。中高生じゃないんだから、毎日電話を、メールをしないと寂しくて、なんてことはないよ。だから大丈夫。  声を聞いたら会いたくなってしまうから、大丈夫。 「っ……ン」  でも君が恋しくてたまらない。  君に会いたくて仕方がない。 「っ」  だから、君に抱かれてる真似をしてる。伊都との二人ご飯を済ませて、少しのんびりしてお腹を休ませてから伊都を寝かせて、いつもだったら声を殺しながら君に抱かれてる頃。そんな時間に。 「ン……ん」  睦月のベッドで、睦月の枕にキスをしながら、寝転がって、後ろの孔に指を入れてる。  ここに、いつもなら君のを深くまで。 「ン、ん」  やだ。  指じゃ、やだよ。 「ン」  だから、ぎゅっと顔を睦月の枕に埋めて深呼吸をした。 「はぁっ」  あまり一人でするのは得意じゃない。そんなに気持ち良くないから。自分の指じゃ気持ち良くなれない。君の指ならすぐに、すごく悦んでしまうのに。 「あっ……」  けれど、それでも、今は中が欲しがりですごいから。 「あっ……んっ」  睦月に胸のとこをカリカリって引っ掻いてもらうのが、たまらなく気持ち良くて。それを真似てる。よく、ここをこうされると。 「あぁっ」  思わず声が零れた。指がきゅぅんって、締め付けられる。  いつも、睦月にこれをされる時、俺の中はこんなふうに睦月のことを締め付けてるんだって思いながら、指でしてる。 「っ」  真似て、届かない奥に悶えながら、それでも浅いところばかりを擦って煽る君のことを思い出して、同じように。 「っ、っ」  ――千佳志さん。  はしたないって怒られちゃうかな。それでも、止められそうもない。指を出し入れするのを止められなくて、くちゅくちゅ小さな音が止まらなくて。  ――ここ、トロトロ。 「っ、ン」  ――もう欲しい?  欲しいよ。たくさん。  ――何が欲しいの?  睦月の太いの、ここに挿れて。  ――挿れたら?  動いて。奥まで何度もたくさん動いて。  ――あとは? 動くだけでいい?  や、だ。前も乳首も全部いじって。  ――千佳志さん、今日はずいぶん。  欲張り、なんだ。欲しがり。  ――千佳志。  欲しがりすぎて、サンタさんも呆れてしまうかもしれない。  でも仕方ないよ。週末、カップルが楽しそうにデートしてるのをたくさん見てしまったんだから。会いたいって気持ちばかり募ってしまったんだ。 「あっ」  ――イったの?  だから、できることならサンタクロースにも笑って見逃してもらえないかな。  あの手の中でイきたいなんて、健やかで聖なる夜を祝福するにはやらしいことばかり、今夜はずっと考えていたことを、どうか。  必要書類は全部調えた。コピーもばっちり、提出してもらいたいものを各従業員から受け取り済みなのも確認してある。あとは、あとは――。 「それじゃあ、藤崎さん!」 「はい! もう大丈夫」  あとは、特になし。 「今日がクリスマスみたい」  藤崎さんが笑ってた。お先に失礼しますって飛び出す俺のずいぶん後ろでお疲れ様いってらっしゃいって言ってるのが聞こえた。  車に乗って、途中寄り道をしてケーキを。明日明後日が本番のケーキ屋さんはとても静かだった。 「伊都!」 「待って、おとおおおさああああん!」  ランドセルがガシャガシャ賑やかだった。まるで、シャンシャンと軽やかな音を立てるトナカイの鈴の音みたい。 「ただいま!」  今日も一段と冷え込むでしょうと、お天気予報のクマ太郎が言っていたっけ。そんな寒さなんてお構いなしに走るものだから。俺も伊都も鼻先がまっかっか。まるで赤鼻のトナカイみたいで。 「おかえり、千佳志さん、伊都」  先に帰ってきていた睦月がそれを見て笑っていた。

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