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家族について編 2 大人の時間

「へぇ、それはすごいじゃないですか」  夕食の時に今日、課長から言われたことを伝えた。 「いやっ、まだ、そのっ、手伝いをっていう話だしっ。確定でもなんでもないんだっ」 「お父さん、かちょー、って何?」 「あー、えっと」 「千佳志がいる仕事場の偉い人ってことだよ」 「えー! すごいね! お父さん!」  偉い人とか、自分からは程遠いことすぎて、課長をどう説明すればいいのか躊躇っていたら、睦月が代わりに答えてくれた。  今日の夕飯はさっき買ってきた長ネギたっぷりの中華ダレをかけた揚げチキンとポテトサラダにグリーンサラダ。サラダが二つになっちゃったって、伊都が笑ってた。ツナが食べたいって言ったら、睦月がサラダにしようって言ったと教えてくれた。睦月と伊都で用意してくれた晩御飯だ。 「いや、そんな、すごくは……」 「そんなことない。すごいことでしょ?」 「いや……その……」  突然、今日提案された話だから、まだその、なんてもごもごしていたら、伊都が元気に応援するって大きな声で言い、ガッツポーズを見せてくれた。 「大丈夫だよ! 俺と睦月で応援するっ、ね! 睦月っ!」 「もちろん」  睦月が笑って、大きく頷いてくれて、胸のところがちょっと熱くてたまらなかった。  出世とかさ、そういうの、もう無縁だと思っていた。簿記とかの資格を持っているわけでもないし、今、この現状でその資格を取る時間なんてない。それに資格を持っている優秀な人ならたくさんいる。だから、無理に今この生活の中で頑張らなくてもいいかなって、思ってた。  大昔、営業にいた頃は出世とかやっぱり目論んでいたりもしたけれど、もう今はあまり――。 「でもすごいね。課長候補ってことでしょ?」  睦月がクローゼットの中からバスタオルとかを大きめのリュックの中に詰め込んで明日の準備をしていた。明日も早番って言ってたから、朝の時間短縮のために今のうちに用意をしているんだろう。あのスポーティーなリュックを背負って、颯爽とアクティブな自転車に乗って走っているところがすごくカッコ良くて、たまに見かけるんだけど、見惚れてしまうんだ。 「でも、ただそういう話をもらったってだけで。ミスしたりすれば即消えちゃうかもしれないし」 「……不安?」  夜の十時過ぎ。伊都はもう眠っていて、俺と睦月は今、寝室にいる。だから、話し声は少しだけ気をつけなくちゃ。 「……いや、なんというか……うん。やっぱり、少し不安、なのかな」  落ち着かないんだ。今のままでいいのにって、怖がりになってしまいそうになる。 「できるだけ、サポートするよ?」 「う……ん」  こんなことを言ったら笑われるだろうか。 「……千佳志さん?」  今のままがいいのにって思っちゃうんだ。  仕事帰りに買い物帰りの伊都と睦月にばったり遭遇してさ。三人で並んで帰るっていうの、楽しくて、少しくすぐったくて、とてもあったかくなる。大昔の俺だったら、昇進とか出世とか大喜びしているんだろう。偉い人になるんだよって伊都に嬉しそうに説明していたかもしれない。でも、今は――。 「俺の作ったポテサラ美味くないですか?」 「え? うん。美味しかったよ?」 「自慢の料理なんです。ジャガイモが好きで」 「……うん」  すごく美味しかった。なんだろう。味がしっかりついてて、パンに挟んでも、ご飯のおかずにも合う感じなのに、しょっぱいとかじゃないんだ。 「料理、千佳志さんほどじゃないけど、まぁそれなりにできるから」 「お、俺なんて、そんな」 「一人暮らし歴長いんで自炊大丈夫ですよ」 「……」 「応援、してます」  ねぇ、今、ちょっとさ。君が一人暮らし歴は長いって言ってたでしょ? そのことに、女の子に作ってもらったこと、たくさんあるのかな、ないのかな。なんて、考えてしまうほどには、君のことが大好きなんだ。ずっと一緒にいたい。明日も帰りにばったり遭遇なんてできたら嬉しいのにって思っちゃうほどには。また、あの颯爽と自転車に乗って走り去るところも見たいし、そんな君と並んで、伊都を間に挟んで長ネギ持って帰りたいって思う。 「仕事、頑張って」  そんな君に頑張ってって言われたらさ。 「ね? 千佳志」  そんな君が頑張れって、キスを一つくれたらさ。 「……うん、ありがと」  頑張りたいって思っちゃうんだ。よーし、やるぞって、なっちゃうんだ。 「あの! 晩御飯! とか、ありがと!」 「いえいえ」 「そのっ」 「あーでも、貴方が夕飯作る時には野菜炒め、お願いします。めちゃくちゃ食べたくなってきた」 「えー、でも、野菜炒めなんて睦月でも。誰でも」  誰にだって作れちゃう簡単メニューでしょ? 炒めるだけだもの。 「誰にも作れないよ。貴方の作る野菜炒めは絶品なんだ」 「そんな……」 「ホントだよ? 大好物だ。貴方の作る野菜炒めは、伊都と俺の」  とてもとても大好きだから、たくさん、できるだけたくさん一緒にいたいと思ってしまう。仕事がこの先どうなるのかわからないけれど、その、君との時間が減るのはイヤだなぁなんて、大人としてはいけないことなんだけれど。 「あと、貴方自身に関しては、俺の」 「……ぁっ、ん」 「大好物です」  ベッドに二人して沈んだ。 「世界で一番、美味しい」 「ン、ぁ、そんなことっ、はぁっ……ン」  もう伊都は夢の中だけれど、声は静かにしないと。 「ンっ」 「首に、キスマーク付けてもいい? 伊都と風呂は一緒に俺が入るから」 「ん……いい、よ?」  静かに、可愛がって。 「たくさん、つけて?」  自分からパジャマの襟口を肌蹴させた。口付けられたくて。たくさん、されたくて。 「ぁっ……ン」  でも、やっぱりたまらなく気持ちイイから声が出てしまいそう。だから、腕を伸ばして睦月を引き寄せると、その唇にお願いした。 「ンっ……ン」  声が出ないように手伝ってって、舌を差し入れて、キスをおねだりすると、優しい舌が少し荒々しく、喘ぎ声を絡め取ってくれた。

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