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家族になる日 編 7 行為の痕

 引っ越しといっても独身男性分の着替えや小物を運ぶ程度だから業者は呼ばなかった。持ち込んだ家具といったら本棚と背丈の低いタンスくらい。ちょうどクローゼットに入る高さで、俺も同じようにしているから、クローゼットの一角を整理して、そこにそのタンスを並べて置いた。 「……これで、終わりかな」  ふぅ、と溜め息をその並んだタンスの前で溢して、正座をしたまま見つめた。俺の使っていたタンスはダークブラウン。睦月が使っていたのは黒色のタンス。どちらも低いけれど、微妙に高さは違ってる。そして少し窮屈になったクローゼット。  半分ずつ、になるんだ。  クローゼットもベッドも。そして、リビングには新しく本棚が追加された。 「そのうち、タンス買い直しましょうか」 「……睦月」  気がつくと、寝室のドアのところにお風呂から上がった睦月が立っていた。 「それ、色も違うし高さも違うから。ずっとそのままだと変でしょ。そのうち」  そのうち同じ色の、同じ高さのタンスに。もしくは大きな一つのタンスを買って、それを半分こ。 「うん、そうだね」  半分ずつになるんだ。  夕飯は手巻き寿司を提案したけれど、伊都と睦月の熱烈な要望により野菜炒めになった。きっとこの二人に今日の夕飯何にしようかと聞いたら、週に三回くらいは野菜炒めになってしまいそうだ。いや、もしかしたら四回くらいかもしれない、なんて思って笑ってしまった。  ただの野菜炒めなのに。けれど、俺たちを繋げた特別なレシピだから。 「伊都、やっと寝た?」 「えぇ」  なかなかに手強かったようで、睦月が笑ってる。かなり長い間、伊都の部屋にいたもんね。きっとヒーローの引っ越しに大興奮だったんだ。朝から元気だったし、昼も夜もそのテンションのまま、一生懸命に彼なりに引っ越しを手伝っていた。よくあれだけ動いてはしゃいで電池切れにならないなぁと感心したほど。けれどそのテンションは寝る直前まで続いていたようで、しばらく伊都の部屋からは小さな話し声が聞こえてきていた。  俺はその間にリビングを片付けて、それから、寝室でのんびりしていた。 「疲れてすぐに寝ちゃうかなって思ったんだけど、よっぽど嬉しいんだろうね」  クスクスと笑いながら、今は窮屈になったクローゼットの中を整理してみたり。 「野菜炒め、大丈夫だった? なんだか期待されすぎちゃって、緊張しちゃったから、味、変じゃなかった?」  別に本当にクローゼットの中を整理したいとかじゃなくて、その、なんというか手持ち無沙汰で。彼が伊都を寝かしつけてくれて、それで、お風呂に入っている間の、時間を持て余していたから。 「すごく美味しかったですよ」 「……」  心臓が飛び跳ねてしまう。 「千佳志さんは疲れました?」  すぐ後ろに君が立って、背後から抱きしめるようにただハンガーにかかった服をいじっていた俺の手を捕まえたから。 「眠い?」 「……」  伊都と一緒なんだ。 「眠く、ない、よ」  君がうちに来た。泊まるでも食事だけをするのでもなく、我が家に来た。そのことにずっと朝からテンションが高くて、ふわふわしちゃってて、はしゃいでる。 「俺も、よっぽど……嬉しいみたい」 「……」 「睦月が、いるのが……ぁ」  抱き締められて、首筋にキスをされた。 「しばらく、風呂、俺が伊都と入るんで……ここにつけてもいい? 痕」  行為の痕はつけないようにしてる。  俺は、君の背中に爪を立ててしまわないように、いつも爪を短くしている。水泳のコーチの背中に爪痕なんてあったら子ども達の様子を見学している目敏いお母さんたちに見つかってしまうから。  睦月は俺の肌に口づけの痕をつけないようにしてくれる。伊都とお風呂に入った時に、どうしたの? これ、と尋ねられてしまわないように。  だから、互いに行為の、セックスの痕はつけないように、していた。 「い、よ……」  コクンと頷き、うなじを晒すように俯いた。 「あっ……」  ゾクゾクした。  普段も全身にキスをくれるけれど、それは痕が残らない程度のやんわりと優しい触れ方だったから。 「あっ、睦月っ、陸っ……ん、ンッ」  痛いほど吸われる。それがたまらなく興奮させた。 「あ、あ、あ」  自分の身体に睦月の口付けが残る快感に一気に熱っぽくなる。 「はぁっ」  そして体温が上がった身体を服越しじゃなく、忍び込んできた大きな手に弄られて、乳首を摘まれた。痛いくらいに指で摘まれて、うなじのキスをされて。 「あ、あ、あ、あ」  すごく感じて。 「ン、んんんんんっ」  あっけないほど、すぐに達してしまった。 「あ……やだ、恥ずかしい」  乳首を抓られて達してしまうなんて。でも――。 「千佳志」 「あっ……ン、睦月」  首筋にキスの痕が刻まれただけで興奮する。 「もっと……して」  君のものという印が身体に刻まれることが、嬉しくて、興奮してしまう。 「もっと、睦月、痕、つけて」  一つあるのなら、三つも四つも、いくつあっても変わらない、でしょう? それならたくさんがいい。 「睦月……」  後から抱きしめてくれるその腕の中でくるりと振り返り、その唇にキスをした。舌を差し込んで、ねだるようにそのまま舌を絡みつかせて、手は君のペニスをなぞるようにズボン越しに撫でた。  硬くしてくれてた。  そして、少し恥ずかしいけれど。  少し、はしたないかもしれないけれど。  君が越してきてくれた、タンスを買おうって、一時ではなくこれからずっと一緒にいるのだから、揃ってる方がいいでしょう? と、思ってくれたことが嬉しくて、テンションが少し高いから、だから、なんだ。 「もっと、触って」  そう囁いて、君の大きな手で硬くなっていた乳首を撫でてと引っ張った。 「あっ……ン」  すごくすごく嬉しいから、君がくれる君の痕に、小さく、部屋から溢れないように小さく、けれどちゃんと甘い声でまた、啼いた。

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