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第24話 下手で不慣れで、淫らな
宮野さんの唇はたまらなく甘くて、柔らかな舌は噛み付いてしまいたくなるほど美味しくて、いくらでも欲しいと思った。貪るようにずっと口付けていたい。
「あっ、やぁっ……ン、ぁ、ふっ……ん」
胸なんて、いじられたって別にくすぐったいだけだと、そう思ってたのに。
「宮野、さん……ぁ、ン、歯、あぁっ! ン」
歯で乳首の先端を齧られて甘い旋律が身体を駆け抜ける。ビリビリと痺れる舌先が彼を欲しがるけれど、でも、乳首も彼のキスを求めてて、あっちこっちが欲しがるから、おかしくなりそう。
慰めるように自分の指を咥えて誤魔化した。これじゃなくて、もっと柔らかいあの舌で口の中を荒らして欲しいけど、こっちにも欲しい。胸のとこ。ツンと尖って、硬くて、あの柔らかい舌の上でコリコリになる粒にも、もっと欲しい。
「口、寂しい?」
「ンっ……んんっ、ふっ」
全身が欲しがる彼の舌が次に可愛がったのは俺の唇だった。まさぐられて、唾液が溢れるくらいに貪られながら、乳首を指先で摘まれて、きゅっとお腹の底が締め付けられる。快感がそこに滲んで、熱くて、痛いくらい。
「あ、宮野さんっ」
キスから伝わったみたいに、彼の手が痛みに似た快感を滲ませるお腹を撫でた。掌でゆっくり円を描くように撫でられてから、家着のズボンをその指先に引っ掛けた。
やっぱりそこを見られるのは緊張してしまう。君とセックスするのは初めてなんだ。こんなに身体を曝け出して、こういう意味で自分の裸を見られたのも触られたのも、久しぶり。だから、どうしても躊躇って手は行為に待てをかけようとするけれど。彼の手は強引にそれを拒んだ。
「俺、嘘つきだって、言ったでしょ」
「っ」
「無理強い」
「あっ……っ」
見ないでくださいとか、言えたらよかった。見えないように電気を消して、とも言えなかった。だって、消してしまったら、この茶色の瞳がちゃんと見えないから。茶色い髪が乾ききってなくて、少し濃いブラウンで、その髪をかき上げる君の仕草が見られなくなってしまうのがもったいないから。
それに、ほんの少しだけ見て欲しかったんだ。同じ男の裸を見て、君が萎えてしまわないかと、そればかりが心配だったから、見て、君が――。
「っ」
今、部屋に響いた何かを飲み込むような音は俺のじゃなくて、宮野さん。彼が自分の懐で裸になって組み敷かれている俺を見て、喉を鳴らしてくれた。興奮してくれてるって感じられて、内側がまた蜂蜜みたいに蕩けていく。
「変、じゃない、ですか? 気持ち、悪いとか、ない?」
訊きたいって思ってしまった。きっと、合宿の時の君と同じ気持ち。
「男の、裸、なんて……」
どういう意味の好きです? って、俺に答えを言わせたがった君と同じ。
宮野さんは眉をしかめてどこかが軋んで痛いみたいに、表情を渋くする。きっと今、彼は我慢してる。
しかめっつらのまま自分の服を雑に脱ぐと、深い溜め息をひとつ、二人の間じゃなくて、横に吐き出した。
見たこと、あるのに。
プールで、何度も、伊都のスイミング見学をしながら、彼の裸を見たはずなのに、喉奥がヒリつくくらいに熱くなる。彼の裸を見ただけで、火照ってしまう。同性の裸なのに、なんでこんなに。男性を好きになったのは彼が初めてなんだ。自分と同じ男の裸に興奮したことなんて一度もない。
けれど、宮野さんのは、全然違う。どうしよう。喉奥から身体の内側全部が熱くて濡れていくような気がした。本当に燃えてるみたいに熱いから、自分の口元を手の甲で塞ごうとしたら、その手を強く掴まれた。
「佐伯さんが、意地悪だ」
「あっ」
宮野さんが肘をついて、お互いに裸の胸が触れるか触れないかのギリギリに覆い被さりながら耳にキスをする。低く、掠れた声で囁きながら。意地悪しないでって、吐息混じりに告げられて、身体のどこにも触れないのに、全身をゾクゾクしたものが駆け抜ける。怖いくらいに感じてしまう。
「宮野さ、」
そして、捕まえた手首を引いて、教えてくれる。
「ぁ……」
「貴方の裸、やばいです」
硬くて熱くて、触れたら、蕩けた。俺との行為に興奮してくれてるって、君のペニスを握ったら、実感できて、理性が溶けて、トロトロになって、自分の先端から溢れて零れてしまう。
「やぁぁっン、触らない、で」
君の興奮をたしかめて、もっと気持ち良くなってって、握って扱く、あの手を濡らしてしまう。泳ぐ時は力強く水を掻き分け進む、節くれだった手を。
「あっ! ン、宮野さんっ、だ、めっ……あ、あぁっン」
「貴方の裸を目の前にして、こんなに我慢してるのに」
「あぁぁっ! 手がっ」
「ね、貴方ので俺の手が濡れて、やらしい音がする」
言わないでよ。くちゅくちゅって、こんな音、恥ずかしい。こんな音を自分のそれが立ててるなんて、信じられない。
「やっ、だめっ」
「……佐伯さん」
「あ、お願い、も、出」
自分の手よりも大きくて、力強くて、少しごつごつした手にきつく包まれた。強く扱くくせに、くびれをくすぐる指先はもどかしいくらいに優しくて、もっとって腰が揺らいでしまう。彼の手にもっと気持ち良くしてもらいたいって、身体が勝手にその手を求めてしまう。
「あ、もぉ……」
お願い、って、なぜか目の前で見つめる君に縋ってしまった。
「宮野さん」
「あ、ンっ、ン、んんっ、ぁ、そこ、ダメっ乳首、はっ」
恋しくておかしくなりそう。
君が愛しくて仕方ない。もっと、そこも全部舐めて濡らして欲しい。
「たまんない」
「あ、ン、んンンンンンーッ!」
好きな人に乳首を貪るように愛撫されながら、好きな人の指に可愛がられて、その手の中にずっと溜め込んだお腹の底にある熱を吐き出した。腰を浮かせて、跳ねるように揺らしながら、あの手の中に白を塗りつけてる。
「は、ぁっ……」
薄い呼吸をしながら、射精の余韻を全身で感じるのに、どうしよう。
「宮野さん……」
もっと欲しくて、彼を見つめてしまう。
身体を重ねて、首筋に吸いつかれて、お腹の底にまたズンと重い熱が溜まり始める。こんな自分は知らないのに、戸惑うよりも、「欲しい」のほうが大きいんだ。
もっとたくさん、首筋だけじゃなく全身キスして、全部吸って、全部して。
俺も君の全部が欲しい。
「んっ」
喉元を差し出すように背中を反らせたら、彼へ愛撫をねだってるみたいになった。身体をくねらせて、気持ちイイって全身を擦り寄らせてしまう。ここも、こっちも、もっと、してって。
「あ、ン……ぁ、齧ったら」
「煽らないで、俺のこと」
答えてくれる唇が嬉しかった。乳首を吸って、口に含んで濡れた口内でたっぷり唾液を塗りつけられると震えるほど。乳首なんていじられて喘ぐ自分は恥ずかしいのに。
「煽ったら、ダメ?」
君を煽って、興奮させられるのなら、こういうの不慣れな俺でも誘惑できるのなら、なんでもしてしまいそう。
「ダメ?」
キスをしたくて、上半身を起き上がらせて、可愛がってくれる彼の頬を包んで、自分のほうへ向けさせる
「佐伯さん」
呼んでくれる声も美味しそうだから、飴みたいに舌へしゃぶりついた。
「ン……ん、ぁ、ンく」
角度を変えながらお互いの口内を貪って、唾液を掻き混ぜ合って、俺は腕で彼の首にしがみ付く。彼は、彼の手は、俺の太腿を撫でてから、マッサージするみたいに足の付け根を押した。
ここ、を今から触れるって、指先が教えてくれる。
「嘘つき、なんでしょ?」
「……」
「待ってくれないんでしょ?」
下手くそな誘惑だけれど、お願いだから、誘惑に答えて。
「無理強い、して、くれるんでしょ?」
キスをしながらした慣れないおねだりに答えてくれる指先を自分からも迎え入れたくて、足を開いた。
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