キスより先のこと、ちゃんと想像したよ。セックス、するって、ちゃんと、意識した。ここ、使うんだって、思ったよ。 　こんなとこ、平気なのかな。宮野さんにそんなところ触らせてしまっていいのかな。ちゃんとできるかなって。そう思ったけれど、ひとりでお風呂に入るチャンスなんてなかったから、試してみることなんてできなかった。彼を受け入れられるのか、わからなかった。 　彼も萎えてしまうんじゃないか。女性みたいに柔らかな箇所なんてどこにもない。骨っぽい身体も心配だったけれど、そんなとこを使うってなって、躊躇うかもしれない。俺も、そんなところで繋がれるのか。お互いに気持ち良くなれるのかなって、心配だった。 「あっ……んっ……ン、んっ……」 「苦しい？　佐伯さん」 　首を横に振った。最初は苦しかった。ローションをまとって充分に濡れた指が孔に押しつけられた瞬間はすごく緊張した。力を抜いてって言われて、必死に意識したけれど、それでも最初、彼の指に抉じ開けられてる感じのほうが強かった。押し込まれる指を拒否したくなくて、必死になればなるほど、お腹の奥を掻き混ぜられてる圧迫感のほうが強くなっていく。それまで身体いっぱいに溜まった快感は息苦しさに変わりかけてた。それなのに――彼のくれるキスひとつで蕩けてしまった。 「ん、ぁっ、へ、いきっ」 　今は彼の指を締め付けてる。自分の内側で感じる彼に悦んでる。ゆっくり、丁寧に、解されて、身体だけじゃなくて、気持ちもトロトロだ。濡れたやらしい音はローションが立てる音だけじゃない。キスも肌に落ちてくる愛撫も全部濡れた音がする。水遊びしてるみたい。 　指が中で動いてる。あんな場所に君の指をって、今日、今の今まではそう思って申し訳ないような気さえしていたのに。 「息、苦しくなったら言って」 　今はそう思わないよ。 「ン、んくっ……んふっ……ぁ、ふっ」 　唇に齧り付かれると、やっぱりとても気持ち良くて、指にきゅんきゅんと孔の奥から吸い付いてしまう。もっと君に抉じ開けてもらいたいって、そう思ってる。 「？　っ？　んんんんんっ！」 　舌を深くまで差し込まれて、声は全部彼に食べられてしまった。 「ン、んっ……んんっ、ン！」 　何、そこ。 「佐伯、さん」 「んんんんっ！」 　彼の指が触ってる。これって、きっと。 「気持ち、悪い？　ここ、苦しいなら、やめるけど」 　前立腺。ちゃんと、君とセックスすることを想像してたよ。ちゃんと考えてた。だから、そういう言葉もちゃんとわかってた。最初は苦しいって。ここで繋がるには前準備が必要で、しっかり準備していてもできないことがあるかもしれないって。でもそれで普通。最初は慣れるところから。ほぐして、柔らかくして、トロトロに濡れて抱かれるのを気持ち良く感じられるまでには時間がかかることもあるって。 　初めてがどんなに苦しくてもいいから、君と繋がりたいって思っていたのに。 「ン、んんっ」 「佐伯、さん」 　なのに、なんで？ 　そこを押されるとビリビリして、腰が痺れたようになるけれど、でもちゃんと、気持ちイイ。 「ン、んっ……ンくっ、ぁ、宮、の、さんっ」 　ぎゅっとお腹の底が力を込める感じ。熱が君の指に押された粒に集まって、蕩けてしまいそう。 「ん……」 　ぴちゃ、って、唇を離す時、音がした。濡れたキスの音。舌を伸ばして、君の唇をキャンディーみたいに舐めた音。それと――。 「ダメ、そこ」 　君の指に乳首やペニスみたいに可愛がってってねだる、やらしい俺の身体がしゃぶり付いて締め付けた音。 「ごめ」 「ううん。そう、じゃなくてっ、気持ち良くて、おかしくなりそう」 　痛いんだと思った？　俺も、そうなるって思ってた。そんなところ、きっと苦しくて最初からなんて感じられないって、こんな場所で気持ち良くはなれないって、そう思った。最初は快感よりも、君のことが好きっていう気持ちの大きさで繋がれるんだろうって、思ってた。それなのに。 「お願い、だから」 「……」 「お願い」 　喉を鳴らした君に齧り付きたい。荒く乱れた吐息を零す君の唇にキスしたい。強くて優しくて、そしてやらしい指先で乳首をいじめて欲しい。もっと深く、濃く、掻き乱して、俺のこと。お願いだから。したい、したい。 　君に抱かれて、セックスしたい。 「意地悪、してもいいですか？」 「ぁっ」 　指じゃないのが欲しいのに、指が抜けるのは寂しいワガママな俺。 「お願いって、なんのこと？」 「っ！」 　覆い被さって、耳元でそっと低く掠れた声でそんなことを囁く君。 「も、意地悪……」 　声が上擦ってしまう。口元を覆って、声を抑えながら訴えたけれど、身体を重ねたまま君はじっと俺を待っている。恥ずかしいよ。年上なのにそんなところを指で広げられてトロトロにされて、年下の君にイかされて。恥ずかしくて、きっと顔は真っ赤になってる。 「宮野さんの……」 　でも、恥ずかしい以上に気持ちイイ。好きな人の指で抉じ開けられて、好きな人と繋がれるように広げられて、全身を可愛がられるのは、たまらなく気持ちイイ。自分がこんなふうになるなんて知らなかった。思いもしなかった。何度も君とセックスすることを考えたのに、こんなに気持ち良くて、嬉しくなることなんだって、今、知った。 「ここに、欲しい」 「……」 「ここに、奥まで……来て？」 　自分から足を広げて、ヒクつく孔を晒して、甘えてる。おねだりをして好きな人を欲しがる。 「あっ……」 「佐伯さん」 「あぁっ……ン、ぁ、ついっ」 　指よりも熱くて太い君のペニスに抉じ開けられていく。ぬぷり、って押し込まれて広げられて、内側が君に擦れて熱くなる。 「あ、ぁっ……来ちゃ……ぁ、ンっ」 「っ」 　全身心臓になったみたい。 「ぁ、宮、の……さんっ」 「くる、しい？　平気、ですっ？」 　君を埋め込まれたって全身で感じてる。 「宮野、さんは？」 「頭、ショートしそう」 　貴方の中にいるなんて、おかしくなりそう――そう掠れた声で告げられて、きゅんって、宮野さんを締め付けていた身体がもっとしゃぶりつく。 「よかった。ごめ、なさい」 「佐伯さん？」 　汗？　シャワーで濡れた髪は今もまだ濡れたまま。俺を見つめる瞳もずっと濡れたまま。君に抱かれてる俺と同じだ。 「心配、してもらったのに」 　苦しいんだよ？　とても、息する隙間もないくらい苦しいのに。 「気持ち、イイよ」 　そう伝えたら、びっくりさせてしまった。ごめんね。でも俺もびっくりしてるんだ。 「初めてなのに、すごく気持ちイイです」 　身じろいだら濡れた音がするくらい、トロトロになるほど気持ちイイ。 「だから、もっと、して」 「っ」 「あっ、ンっ」 　彼が腰を揺らしただけで全身にゾクゾクって快感が駆け抜ける。 「あぁぁっン」 　腰を引かれると、彼が抜けてしまうから、追いかけるように身体をくねらせてしゃぶりついて。 「んんんんんんっ」 　キスをしながら、突き立てられて、もっと深くに突き刺してもらいたくて、背中を丸めて掴まった。 「佐伯、さんっ」 「あ、やぁっン、あ、あぁっ、ン、そこ」 　前立腺をペニスで擦られてるとたまらなかった。ぶわって、熱が広がるのがわかる。激しく擦り付けられて、溶けてしまいそう。 「佐伯さん」 「？」 「名前で呼んでもいい？」 　気持ち良くて、愛しくて、トロトロになる。 「千佳志（ちかし）って、二人っきりのときだけ、呼んでもいい？」 「あっ」 　今だってこんなに近く、ゼロ以上にもっと近くに君を感じるのに。名前を呼ばれただけ。たったそれだけのことで、もっと君を近くに感じられて、ほら、身体がおおはしゃぎしてる。大喜びして、君が好きって、しゃぶりつく。 「千佳志、さん……」 「も、ズル、い。意地悪」 「意地悪にさせるのは、千佳志さんでしょ？」 「っ」 　動かないで。イってしまう。君に奥をつかれて、根元まで深くしゃぶって、擦られて、初めてなのに。 「言って？　千佳志さんの欲しいもの全部あげるから。だから」 　ズルいよ。爽やかでカッコよくて好青年なくせに、恋人にはこんなゾクゾクするような顔で、意地悪なことを言うなんて。 「中に欲しい。睦月に、中でイって欲しい」 　好きでたまらない。 「意地悪なのは、貴方でしょ？　千佳志さん」 　そう囁かれ喘いでしまう。甘く、やらしく啼きながら、激しく突き上げられて可愛がられて、中で果てる睦月の熱につられるように、ふわりと飛んだ。