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第38話 こっそりと、しっとりと

 泣かないでっていうくせに、俺を泣かせてるのは君だ。  ずっとひとりで伊都を育ててた。仕事して、家事して、育児して、不安はいつだって付きまとってた。水なんてとても身近なものを怖がる俺に伊都をちゃんと育てられるのか不安で、怖くて、泣きたくなる夜なんて数えきれないくらいあったんだ。それでも強くあろうと思った。父親として、って言うのももちろんあるけれど、それよりも、他に道なんてないだろ? 頑張るしかなかったんだから。俺が放棄してしまったら、伊都はどうするんだって、必死に自分のことを自分で奮い立たせてやってきたのに、君のせいで、泣いちゃったじゃないか。  ずっと、ずっと我慢できていたのに、涙が止まらない。 「っ」  もう、今の、俺はひとりになれなくなっちゃったじゃないか。それが何より怖いよ。水よりも、ずっと怖い。 「む、つきっ声っ」 「好きです、千佳志さん」  息が止まるほどのキスで口の中を貪られながら、ズボンの中に潜り込んできた手に身体が震える。 「っは、ぁ……ン」 「今日、いつもより敏感ですね。ここ、もう濡れてる」 「っ、睦月のっ、せ……ん、ンン!」  シャワーの熱だけじゃこんなに熱くならない。シャワーを浴びて、着替えたばかりの下着をペニスの先から滲ませた液で、こんなに濡らさない。 「俺の、せい?」  そうだよ。きみのせいだ。君のせいでこんなにびしょ濡れになって、君のせいで、俺は泣き虫になって。君のせいで、こんなに怒ってるんだ。ホント、怒ってるんだからな。 「そ、だよ! 睦月の、せいっだから」  それなのに、言葉を失ったように無言でただ微笑んで、幸せそうな顔なんてして。 「ん、ぁっ……」 「俺のせいなら、俺が責任取らなくちゃ、ですね」  もう、本当に知らないから。「責任」の重さを君と俺とで取り違えていたとしても、もう、知らない。 「いいの?」 「……千佳志さん?」 「ホントに、俺で、いいの?」  こういうことなんだ。伊都がいるんだから、君とキスするのも、セックスするのも、いつだって、声を殺していないといけないんだよ? こんな小さな我慢だって、積り積れば、いつか払いのけたくなるほどの大きな不満の塊に。 「貴方じゃなくちゃ、イヤなんです」 「っ」  熱っぽい声。低くて、この距離で聞くと刺激が強すぎてしかたない声。その声を発する唇が愛しい。指先で触れたら濡れてて、ドキドキした。 「伊都君と一緒にいる貴方がいい」  この茶色の瞳がとても好き。指先で目元をなぞると目を瞑ってくれて、睫毛に触らせてくれた。指に触れる小さな、とても小さな刺激。たったそれだけでも、震えるほど気持ちイイ。  君のしっとりとした声も気持ちイイ。聞くだけで濡れて、イってしまいそうになるほど色っぽく俺の中を掻き乱す声が耳元で「好き」って囁く。  俺を貴方の中にいれさせて。  そう言って、深くて濃くて、とても、やらしいキスを君がくれて、すごく嬉しかった。 「あっ……ふっ、ン」  睦月の指が突き立てられる。中を擦られて、前立腺をいいこいいこって慰められて、甘ったるい声がどうしても零れてしまうから、自分の手の甲で抑えて、それでも零れる吐息に唇を噛む。抱き締められながら、君の頭を抱きかかえて、乳首もびしょ濡れにして欲しいのに、唇にもキスして欲しくて。 「ン、睦月……ぁ、ひゃぁっン」  名前を呼んだら、乳首の先端を齧られた。歯が突起に突き立てられると、気持ち良さそうに腰が揺れてしまう。身体中愛されて気持ち良さそうに、ペニスが蜜まみれになってピクピク反応してる。 「やぁ……ン」 「千佳志さんの、中、すごいよ」 「あ、ン……ん」 「気持ちイイ?」  乳首を舌で突付かれながら尋ねられて、素直に頷いてしまうくらい、たまらなく気持ちイイ。くちゅくちゅ濡れた音を立てて、悦ぶくらい、すごくイイ。濡れた乳首を君の唇に押し付けて、もっともっとって腰を浮かせて、指で広げられることにすら嬉しそうに吸い付いた。 「千佳志さんの、ここもすごい」 「あ、ダメ、食べないでっ……」 「痛い?」 「ィ……っ、ちゃう、あっ、んんんんっ」  前立腺を押さえながら、乳首を強く吸われて、目の奥で星が点滅した。睦月の舌で濡れる乳首がすごく気持ちイイ。もっと硬く尖らせてその舌にたくさんいじって欲しいのに、唇も君を欲しがるんだ。乳首みたいに、ペニスみたいに、口の中にもしてよって、喉奥までカラッカラにさせて潤してよってねだってる。 「睦月」 「? どうし……千佳志、さん?」  口の中でも睦月のこと味わいたいんだ。 「千佳……」  君を寝かせて、上になっただけで顔が燃えてるみたいに熱くなった。君を押し倒しているっていう、この光景に眩暈が起きる。君に見上げられてるっていうことにこんなに興奮してる。 「下手、だけど。したことない、から」  快感でふらつきながら足元へ移動して、そして、キスをした。 「っ」  睦月が息を飲んだのがわかる。そのまま、ゆっくり、唇で睦月の形をなぞるように、身体の奥で君を迎える時みたいに、飲み込んでいく。君の硬くて、丸い先端を咥えて、頬の内側で締め付けながら喉に君を。 「千佳志っ」 「ン……ん……ンっ、く」  君のペニスにキスをして、そのまま口の中でたっぷりと濡らしてあげた。さっき、君の舌で可愛がられた乳首みたいに、口の中で唾液を塗りつけて。さっき、君の指で前立腺を撫でてもらったみたいに、舌で切っ先をイイコイイコして。 「っ」  睦月のペニスを口の中で味わって。 「千佳志っ、さっ……ん」  君を気持ち良くしてるはずなのに。 「ン……」  君のペニスを咥えてる唇が、舌が、頬の内側がたまらなく気持ち良くて、お腹の底が疼いて仕方なかった。今、濡らしているこの熱の塊を早く奥に打ちつけて欲しくて、たまらなかった。

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