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第44話 奥まで濡れたくて
水、あんなに怖かったのに。今でも、少しだけ、怖いかな。きっとこの水のどこかに「あれ」は潜んでるんだ。ちょっとでも油断したら、すぐに飲み込まれてしまうかもしれない。
「千佳志、さん」
「ッン、ん……睦月」
だから、お願い。睦月の、近くがいい。
「あっ、ふぅ……っ、ン」
キスで潤った唇で、睦月の吐息を飲んで、舌を絡ませた。
「栗林さんたち、もう帰りましたよね?」
「う、ん……さっき、受付の子連れて、帰ったよ」
色っぽく微笑まれて、胸が甘く軋んだ。もう、近くにいるだけじゃ、足りなくなったよ。
「伊都君、ご実家に泊まり、なんですよね? そしたら、今夜って……」
「うん。そう」
もっと君の近くに行きたいから、水中でふわりと浮かせた足を君に絡ませ、抱きついて、身体、くっつけて。冷たい水が二人の触れたところだけ熱せられていきそうなくらい、熱くなる。
「練習、しなくていいの?」
もっと、キス、したい。
「ホント、貴方は意地悪だ」
もっと、睦月の。
「練習できると、思います? 今、この状態で」
「あっ……ン」
自分でも甘く蕩けた声だなって思う。プールの清々しい水色の壁に反響するにはひどく熱っぽい声。君が水の中で押し付けてきた熱に上げた自分の声が堪らなく嬉しそうだった。
「水の中にいて、怖くない?」
そっと俺の瞳の中を覗き込んで、水に怯えていないかって、心配してくれる。優しい睦月に恋をした。
「こわ、く、ないよっ」
「ホント?」
「あっ……睦月のっ」
紳士なのに、こうして、ふたりっきりになるとどこかスイッチが入ったみたいに切り替わる。やらしくて、セクシーな君が好きでたまらない。俺を抱く時はすごく意地悪で、息するのを忘れるくらいに攻めてくれる。そんなところも好きだよ。
クスッと笑った睦月の吐息が唇に触れる。キスじゃないけれど、悪戯が好きな君は、キスとほぼ変わらない距離で俺のことを焦らして遊んでる。ちょっとでも唇を動かすと、その唇に触れるのに、キスじゃないんだ。キスが欲しいなら、こっちにおいでって、手招いて、柔らかく誘惑する。
「睦月……誰もいないよ」
「そう、ですね」
「伊都のことも大丈夫だから」
「伊都君、ご実家で楽しんでるかな」
柔らかくて、ふわふわしてるのに、痛いくらいに強く刺激されるんだ。
「む、つき……」
ゆっくり「はい」て動く唇。
「ここで、して?」
その唇に触れた瞬間震えた。
「ン、んんっ……ン、ぁふっ……ンくっ……ン」
触れたら、すごく強く抱き締められて、熱く硬くなったそこを押し付けられながら、唇に噛みつかれて、開かされて、そして、舌が――。
「あ、ふっ……ン、睦月っ」
睦月の舌が気持ち良くて、頭を抱きかかえるように引き寄せて自分から吸い付いてしゃぶった。頭を傾げて、舌をたっぷり絡めて、脚で睦月の腰にしがみついて。押し付けられる水着越しの硬いペニスにお腹の底をじわじわ火照らせて。この硬いのが欲しいって疼く身体を浅ましいくらいにくねらせて、擦り寄って。
「あっ、待っ……」
尻奥にある、睦月のことを欲しがるそこの口を、指でなぞられただけで背中が反って、水がちゃんぷんって小さな音を立てた。
「ここじゃ、汚しちゃうから……ぁ、ダメってば、ぁ」
俺を抱きかかえたこの体勢じゃ、睦月のすぐ口元にあるんだ。水着になっていたけれど、睦月ほどしっかりした身体なんかじゃない俺はTシャツを着てた。だから、飛び込んだ時もそのままで、白じゃないから透けてはいないけれど、でも、肌に濡れてぴったりと密着してるから。
「あ、あぁっ……ン」
喉をひきつらせて、プールの水の中で身悶えてる。怖かったはずの水。この中に入った瞬間、身が竦んで、動くなんて到底できないほど力んでしまっていたのに。
「やぁ……ン、睦月っ、ぁ、ダメ、乳首、はっ、んんっ」
水が怖かったのに――ねぇ、どうしよう。たまらなく、水の中が気持ちイイよ。
「あ、ダメってば、そこ、齧らないで」
「やです」
「あ、あっ……ン、ぁ」
「千佳志さんのこれ、コリコリしてる」
「や、言わないでっ」
冷たい水が気持ちイイって感じられるほど、睦月の舌に身体が火照る。パシャンとプールに響く水音は乳首をTシャツ越しに歯で齧られる快感に足が水を蹴った音。そして、乳首がツンと痛いほど尖っていく。もっとして欲しいみたいに、背中を反らせて、睦月の唇に乳首を押し付けて。
「はっはぁっ……ぁ、ダメっ」
奥にある孔を指で突付かれた。指が水着の中で密かにヒク付く孔をイイコって撫でて、唇から喘ぎが零れて止まらない。やらしくて甘い声がにつかわしくないプールに響いてく。しちゃいけないこと、してる。水の中で、乳首を口に含んでもらって、齧ってもらって、水着越しなのに撫でられて、孔をヒクつかせて、そして、痛いくらいにペニスが。
「睦月……」
プールの水の中で勃ってる、なんて。
「お願い、も、イっちゃうから」
「もう、ですか?」
「うん。すごく気持ちイイんだ。だから、お願い」
水が冷たくて、身体は欲情して熱くて、でも君の舌はもっと熱いから。その舌を口に含んでしゃぶりたくなる。
「ン……ふぁっ……睦月の、キス、好き」
舌がすごく熱かった。触れ合った唇も熱くて、でも、君の腰に巻きつかせた自分の爪先はとてもひんやりと冴えていて、ゾクゾクしてしまう。この舌の熱にこんなに蕩ける。それなら、さっきから太腿に擦り付けられるペニスは? こんな熱の塊を、その舌よりも熱いペニスを俺の身体の中に捻じ込んだら?
「ね、お願い」
きっと、蕩けるほど気持ちイイ。
「睦月、イきたいよ」
欲しい。君のそれが。そうねだって、自分の身体を硬い睦月のペニスに擦り付けた。
水の中を睦月は俺のを抱えたまま歩いていく。動くと、殊更冷たい水が足を撫でるように触れていく。ただそれだけでもゾクゾクして、今にもイってしまいそうで、ぎゅっと力を込めた。
「平気だよ。落としたりしないから」
「あ、ン……そ、じゃなく、もう、イっ」
イっちゃうから。
「睦月っ」
座って、って低く熱に掠れた声が告げて、プールの縁に座らされる。指に引っ掛けて水着を脱がされた。
「あ、やだ、見、ぁ、あぁぁぁっ」
そして、大きな掌で割り開かれた、脚の間、君を欲しがる孔の口を見せびらかすように、恋している人の目の前で大胆に開脚させられて、恥ずかしがる暇もない。だって、大きく広げられた脚の間に顔を埋めた君に太腿の付け根を齧られて、その掌でぎゅっと、そそり立ったペニスを握られたから。
「あ、あぁぁぁぁぁっ!」
太腿にチリチリとした刺激、それとペニスを強く扱かれた、急で激しい快楽に、抗えるわけなんてない。
「あっ、睦月っ」
「そのまま、寝転がって。俺のジャージがあるでしょ? 濡れていいから、背中に敷いて」
「あ、でも、待っ、今、イったばっかり、な」
「脚、閉じちゃダメですよ」
「あぁぁっ」
射精の余韻に痺れた身体は少し強く押されればすぐに倒れ込んでしまう。君のジャージを下敷きにして、プールの端で、大きく脚を広げて、はしたない箇所を全部睦月の目前に晒して。
「あ、ぁっ……ン、指っが……」
「ほぐすから、痛かったら言って? 千佳志さん」
はしたない格好、こんな場所でこんなことして、ダメなのに。この身体の奥まで濡れたくて仕方ない。君の手で射精して吐き出した白、それをまとって、骨っぽくて長い指に少しでも中に塗りつけてもらいたくておかしくなりそう。
「痛く、ないよ。一ヶ月ぶりの睦月の、指、ぁンっ……」
いけないのに。今ここで抱いてもらいたい。もっとダメなことして欲しいって、やらしい願望が溢れて止まらない。
「指、すごく、気持ちイイよ……ぁ……ン」
もっと奥まで抉じ開けてもらいたくて、脚を大胆に広げたら、睦月の愛撫に身体は繊細に反応する。揺れて、プール際で水がピシャン、って音を立てて、快感に浸る足先を濡らした。
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