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二人で留守番編 8 酔いどれバスタイム

 デートに誘うのを諦めたんだ。  ちょっと残念な気がしたけど。  でも、よかった。 「ワイン、美味しかった。いつものところで買ったの? なんか、高そうだった」 「あー、ちょっとだけ奮発した、かな。今日は」  二人で話しながら料理して。つまみ食いしながら、あれも食べたい、これも食べようって話して。キスして。 「ちょっとだけだけど」 「美味しかった」 「それはよかった。豚キムチっていうか、千佳志の作る野菜炒めは本当美味い」 「それはよかった、です」  笑って。 「何か秘訣とかある?」 「えー? ないよ。ないない。全然フツーに作ってます」 「そう? なんか違うんだよ。伊都ともよく不思議だよねって。ごくたまにだけど、千佳志が休日出勤との時とかさ、昼飯に作るんだけど。全然違う。二人して首傾げてる」 「えぇ? 野菜炒めだよ? 普通に炒めるだけ……って、そんな怪しまれても」  睦月がとっても険しい顔をするからおかしかった。眉間にぎゅっとシワを寄せて、口をむむむって真一文字に。  何か隠しているだろう犯人の秘密を見破ろうとでもするかのように。  食事後の食器洗いですら楽しいの。  ワインでちょっと酔ってるのかな、睦月が洗ってくれた食器を受け取って拭いている指先がジンジン痺れてる。火照った頬も。ふわふわするつま先も。 「千佳志の野菜炒め以上のご馳走はきっとないと思う」 「そんな大袈裟な」 「大袈裟じゃないよ」 「も……また……」  わ。 「……ン」  キス、とか。  こんなに、普通に、会話の中にふわりと混ざり込んでるキス。  普段は、伊都がお風呂入ってる隙に、とか。そんなふうじゃないとできないキス。今は、触れたい時に触れられる。 「……千佳志」 「ン」  ちょっと酔っ払ってる、かな。  二人で一本だからそうたくさん飲んだわけじゃないけど。でも、触れ合った唇、どっちが熱かった?  睦月の唇が熱かった?  それとも俺の唇が熱かったの?  どっちなんだろう。 「睦月」  ただ触れただけの唇ひとつにこんなにドキドキしてる。もう何度もキスしたはずなのにね。まるで、恋を始めたばかりではしゃいでるみたい。心臓も気持ちも忙しなくて、酔っ払いな俺はずっとソワソワしてるんだ。 「千佳志、一緒に風呂、入ろう」 「え? お風呂? あ、でも、それは、あ、あのっ」  お風呂はちょっと……そんな戸惑いを掴まれた手ごとキュッと握られちゃった。 「ほら、千佳志」  ほら、じゃないよ。  そんな簡単にあっという間に、脱がせないで。 「あ、あのっ」 「うん」  俺たちの恋人時間はとても少なくて、だから、その、昼間に、したこととか、あるけど。でも、なんだか、この煌々と明るいバスルームの中じゃ、ちょっと気恥ずかしくてたまらない。 「自分でっ」 「うん」 「洗うからっ」 「うん」  返事はするのに、俺の身体を洗ってくれる手はちっとも止まってくれないし。  ねぇ、恥ずかしいよ。 「睦月ってば」 「うん。そうだね」  返事をしながら微笑んで、真正面でどうしたらいいのかと肩をすくめれば、その肩をふわふわな泡をまとったスポンジか洗ってくれる。睦月の手、好きなんだ。大きな手は、水を力強く掻き分けて、水中をものすごい速さで泳いでいってしまう。その手に抱いてもらえると安心する。 「っ」  気恥ずかしさと、触れ合う肌が泡で滑る感じに、喉がキュッとしたら、その顎からうなじを泡だらけの掌に撫でられて。 「ん」  ズルだよ。シャワー、ちゃんとできなくなる。 「ぁ……っ」  感じちゃう。  泡に、欲情する。 「ン」  腕の中で戸惑っている俺の頬に睦月の唇が触れる。 「千佳志」 「んっ、っ」  睦月にそう名前を呼ばれるともうそれだけで心臓が躍るんだ。いつもは千佳志さんって言う睦月が、そう呼ぶのは恋人の時だから。  そのまま、キスを交わしながら、泡越しに、指で乳首を撫でられて。 「あっ」  もう、そんなのされたら。 「あぁっ、ン」  気持ちよくてたまらない。 「千佳志、真っ赤」 「あ、だって、あぁ、っ」  言い訳が甘い喘ぎに変わっちゃう。  向かいあわせで全身を大きな掌が滑ってくの。たまに硬くなってる乳首をかすめてくのがたまらなくて。泡だらけの素肌を自分から大きな掌に擦り付けた。 「ぁ……睦月」  自分の声がたまらなく切なげだった。 「うん」  名前を呼ぶと睦月が優しいけれど、ゾクゾクする低い声で頷いてくれて。 「ン、あっ……っ」  キスしながら、可愛がってくれる。 「ンっ!」  指でつままれるとぬるりとして。キュって抓ってもらうと、泡で良くなった滑りがたまらなくて、興奮する。 「あっ、や……待っ」  ど、しよ。 「んんんっ」 「千佳志……」  溶けちゃいそう。  睦月にたくさん撫でられて、可愛がられて、気持ち良くて。  そして可愛がられてとろけてるところを濡れ髪のよく似合う睦月にじっと見つめられてる。  もう。  触りたいよ。 「睦月」  俺で興奮してくれてる睦月に触れて、もっと、君に。 「……ぁ」  やらしいこと、したい。 「あっ睦月っ」 「うん」 「睦、月っ、もうっ」 「うん」  腰を引き寄せられた。 「ぁ、あぁ」 「千佳志」  触れ合う肌は切なくて。お互いの熱を擦り合わせるとゾクゾクする。泡をまといながら一緒くたにその大きな掌に扱かれていくともう、おかしくなっちゃうよ。 「ぁっ」  硬くて。 「ぁ、ダメっ、も、っ」 「うん」 「睦月っ」  バスルームにクチュクチュ、泡が掌の中で激しく擦り合わされて絡まって、熱に溶けてく音がする。 「千佳志がイクところ見せて?」 「あっ」  そして、そのままその掌に可愛がられながら。 「あっ、ン、ンンンン」  深く濃厚な口付けを交わしながら、達した。

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