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楽しい花火大会編 2 真の反抗期について

「えっ、それで反抗期って呼んじゃうんですかっ?」  藤崎さんが身を乗り出すように、隣のデスクにいる俺の方へ、ずいっと寄ってきて、フロアに響いてしまうような大きな声でそう言い放った。 「あ、いや、反抗期なんだろうなぁ……って」 「いやー、いやいや、いやいやいや……そんなの全然ですよっ、本当の反抗期っていうのは、リビングにいません。不貞腐れた顔程度で収まりません。いいです? 反抗期って名前なんですから、反抗してくるんですよー! とにかく、何に対してもっ」  そ、そうなんだ。  それは、なんだかとても大変そう、です。はい。 「この前なんて、成績表は? って聞いただけでブッスーって顔して、無視ですよ? 意味わからなくないです? 成績表は? って、ただ聞いただけですよ? って、まぁ、わかるんです。二、いくつあったと思います? 二っ」 「う、うん」 「二が二個もあったんですよっ! 二個も! 二がっ」  そ、それは、大変、かもしれない。 「あ、でも、ほら、中学一年の成績は、まだ進路とかに影響ないん、でしょ?」 「いやいやいやいやいやっ、考えてもみてください」  は、はい。 「スタートからつまづいたら、その後、ずっと遅れちゃうじゃないですかっ。スタートで、主要5教科に二が二個もあってどおおおするんですかっ。はぁぁぁぁ」 「…………だ、大丈夫、だよ」  もう、そう言う以外に、かける言葉が見つからず、とりあえず、取ってつけたようにそう言うしかなかった。 「そんな取ってつけたように言われても」  はい。取ってつけたように言ったので。  隣のデスクにいて、仲良くさせてもらっている藤崎さんがはぁと大きな溜め息をついて、頭を抱えた。頭が痛いですよ……と呟きながら。  地元で花火大会があるのだけれど、伊都が知らない子も一緒に行くと聞いたところからなんだか不服そうで、と話してみた。小学生だった頃の伊都なら何に不服なのか、拙いけれど、その気持ちを話してくれていた。自分が知っている言葉を頼りに。けれど、今回は何に不服なのか、話してくれそうになくて。  きっと本人も、明確に何に不服なのかを話せるほど、自分の不機嫌の理由がわかっていないのかもしれないけれど。  でも、そういう口数が減るのも反抗期の一つなのだろうなぁって、藤崎さんに話したところだった。 「でも、まぁ……ちょっと、わかるかなぁ」 「え? 本当に?」 「あ、いえ、私は伊都くんじゃないし、伊都くんほどちゃんとした人間じゃないので、本当にそうかはわからないですけど」 「でも、本物知ってると、なんか、子どもの好きとか、付き合ってー、とか、おままごとみたいに思っちゃうんじゃないかなぁって」  その、本物って……。 「あ、いや、私の推測です。でも、佐伯さんのとこって、本物ーって感じがして」  つまり、俺と……その、睦月、が? 「そこまで自分がちゃんとできてるかっていうと、なぁっていう……」  基本的にハキハキ話す藤崎さんが急に言葉を濁してた。  彼女には、俺と睦月のことを話してた。色々と彼女とは、いわゆるママ友みたいな感じで、子どもが同じ歳というのもあったんだと思う。とにかく色々相談し合ってるうちに、彼女になら、俺たちのことを話しても大丈夫なんじゃないかなって。  差別とか、偏見とか、そういうの。  職場で、知ってるのは彼女だけだった。  と言っても、他の場所でもそうペラペラ話したりはしてなくて、どちらかというと秘密にしてた。今時じゃ、同性愛に偏見とか差別意識を持ってる方がナンセンスだって風潮はあるけれど、でも、それは大人の話かもしれない。まだ中学生、というか、中学生だからこそ、そういう話は繊細な問題だろうから。伊都に何かあったらと、できるだけ俺たちは周囲には話さないようにしていた。  むしろ、伊都の方がなんで? 変なことじゃないでしょ? と、オープンにしたがるくらいで。 「でも、藤崎さんだって、すごく」 「もちろんですっ、わかってるし、全然、遊びで、なんてわけじゃないんですけど、なんていうか」  藤崎さんにも恋人がいる。もちろん、相手は男性だ。 「本当に、佐伯さん幸せそうだから」 「……」 「真実の愛っていう感じがして」 「し、真実っ」  え、えぇ。そんななんかとても偉大な感じでなんて。 「だから、気軽すぎて、不服なんだと思いますよー」 「……」 「もっと尊いものなんじゃ的な?」  そんなふうに。 「でも、一番はっ! それで反抗期だったら、うちのはもう大大大大反抗期ですっ」 「!」 「って話です。それこそ性別のせいとは言えないですけど、女の子の反抗期なんて、ほっっっっ」  だ、大丈夫? そんなに息止めて。あの、息。 「っっっっっっんとうに、可愛くないんですからっ」  やっと息をして、その続きを話し始めた藤崎さんのとっても険しい表情に、思わず笑ってしまった。 「ちょっとおお、笑うとこじゃないですよー。じゃあ、もう、一つ一つ、本当の反抗期を教えてあげますね」 「え、えぇ」 「心して聞いてくださいねっ」  そして、藤崎さんが一つ一つ並べてくれた真の反抗期を聞いて、俺はその後、しばらくずっと驚きっぱなしになった。

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