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楽しい花火大会編 5 親子
買うよって言ったから、買うんだけど……。
えっと。
「……」
着付けとか、できる、かな。
大昔に、まだ、美咲と付き合ってた時に着たことあったけど、その時って、実家で、姉さんに着付けをしてもらったっけ。美咲も姉さんが着付けてあげて。なんか、けっこう難しかった気がする。男だから女性ほどは大変じゃなかったけど、でも帯の結び方とかまるでわからないし。
どうしようかな。
でも、二人に浴衣着せたいしなぁ。
うーん。
そう胸の内で唸ってた時だった。
「浴衣をお探しですか?」
そう、女性の店員さんが声をかけてくれた。
「あ、はい……えっと、探してたんですけど、着付けができるかなって」
「そうだったんですね」
店員の女性はニコッと微笑んで、あちらに……と手を前方へと伸ばした。
「こちらにあるのは着付けもある、昔ながらの浴衣になりますが、あちらにあるのはとても簡単に着られるのでおすすめです」
そんなのがあるんだ、と感心していると、彼女がまたにっこりと微笑みながら、その簡単浴衣セットの近くにあったマネキンのところに案内してくれた。
「帯がマジックテープになっているので」
わ、と声をあげてしまった。帯の内側に差し込んであった、先端の「て」と呼ばれる部分を引き抜き、少し引っ張るとペリペリと音を立てて、帯が剥がれていく。もうそれで解けてしまった。
「ただこうして巻き付けてあるだけなんです。ぎゅっと締め付けるように巻き付けてっ、て、先端をただ帯と浴衣の隙間に差し込んでおしまいです。当店のワンタッチ帯の浴衣セットは腰紐もセットの中に入ってるので、着崩れもなく簡単にできるかと」
本当だ。これなら、全然、楽ちんだ。
モスリンという滑りにくく、しっかりと留められる、本格的な浴衣に使われてる腰紐がついてくるから、見栄えもちゃんとして見えると教えてくれた。
ワンタッチの簡易帯では綺麗に纏まらない場合もあるけれど、しっかり腰紐で結んでおけば、ダボつく心配もないって。
「いかかがでしょう」
「ぁ、はい」
頷くと彼女もにっこりとまた笑ってる。
「これにします。えっと、柄とかって」
「カラーバリエーションもすごく多いので。お客様用ですか?」
「あ、いえ……」
これなら俺も、着られそうだ。
「えっと、俺も買おうかなって思うんですけど、あと……」
少し、気持ちがキュッとした。言って、みようかなって。
「中学生とそれから……三十代の」
俺たちはあまりこの関係性を人に話すことはなくて、知ってるのは藤崎さんと俺の家族。言いふらすようなことでもないし、伊都が学生のうちは、ね。だから、話したことはあまりないんだ。
「親子、なんですけど」
だから気持ちがキュッとした。
彼女にしてみたら、なんてことはない、そうなのね、って返事をするだろう、ちっとも驚くこともない俺の言葉だけれど。
ドキドキした。
伊都と睦月を親子って呼ぶことに。いいよね。戸籍上はそうじゃないけれど、一緒に暮らしていて、睦月も伊都の進路とか、学校のこととかフォローしてくれてるし。伊都だって睦月のことをすごく慕っていて。
毎日一緒にご飯も食べてる。
小さい頃は川の字で寝たりもしてた。
もう最近は伊都が大きくなったからしないけれど、一緒にお風呂にだって入ったんだし。
ほぼ親子、でしょう?
「お色も合わせた方がいいですか?」
「あ、はい、可能、なら」
色違いとか、親子っぽいでしょ?
「では、こちらはいかがでしょう」
店員さんが見せてくれたのは白い浴衣と濃紺の浴衣。爽やかで、涼しげだった。
伊都が、白かな。睦月はちょっと渋めで濃紺のほう。
「あ、はい」
素敵、だなって。
「あと、黒もございます」
「あ」
睦月はそっちがいいかも。かっこいい。
「身長はどのくらいでしょうか」
「あ、えっと、子どもの方がこのくらいで」
中学生になってすごく背が伸びたんだ。まさに成長期。もうあと、俺の身長から十センチもないかもしれない。睦月の身長からならまだ十センチ以上は差があるけれど、それも、すぐに並んでしまうのかもしれない。
そっか、そしたら、俺が一番小さくなっちゃうのか。
そっかぁ。
「でしたらサイズはこちらとこちらがちょうどかと」
「は、はい。じゃあ」
親子と、俺の分。
「それで、お願いします」
「承知しました」
彼女にしてみたら、ただの接客。
けれど、親子って、伊都と睦月のことを話したのが、なんだかとてもくすぐったくて。レジで会計をしている間も、きっと俺は少しおかしな顔をしていたと思う。油断するとにやけてしまいそうで、ぎゅっと口を結んでいたから。
「ありがとうございました」
終始にこやかに接してくれた彼女にぺこりと頭を下げて、ショッピングモールのエスカレーターを降りていく。
ちょうどそこにもう数日でやってくる地元の花火大会のポスターが貼られていた。
晴れ、だったっけ。
エスカレーターはまだ到着しないことを確認して、スマホをポケットから取り出した。
数日後の週末、そこのお天気を見てみると。
「!」
よかった。
晴れだ。
大丈夫そう。
それを確かめると、ホッとしながら。その夜空に本当に花のように広がる大きな花火を見て、途端に花火大会が楽しみになった。あと三日かぁって、ワクワクした。
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