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楽しい花火大会編 7 花火
「わ……すごい」
そう呟くと、睦月が「うん、本当だ」と小さく返事した。
それからしばらくして、ぱぁと夜空が明るくなるような花火が輝いて、その数秒後、心臓が驚いてしまうような音がした。
「わぁ……」
キラキラと火花の残りが夜空に散りばめられていく。
それがとても綺麗で、ビールを手に持ったまましばらく目が離せなかった。
「すごいね」
二人でベランダで花火鑑賞。やっぱり、丸々とした花火ではなく、建物で欠けて見えるのはちょっと残念だけれど、二人で、ビーチやレジャープールで使えるからと前に買った、ビーチチェアを二つ並べて、小さなテーブルに買ってきたご馳走を並べて見上げるのもいいなぁって。
ちょっとワクワクする。
夜のピクニックみたい。部屋の明かりも消して、小さなサーキュレーターを扇風機がわりにベランダに持ってきて。
「伊都は楽しんでるかな」
そう言ったのは睦月だった。
どうかなぁ。
女の子、免疫ないとかなのかなぁ。でもそんなに男女分け隔てなく接してるって、学校の三者面談では言われたけどなぁ。クラスで一番誰とでも仲良く話してるって。一年生の一学期。小学校がいくつか合わさったことで、知らない子もたくさんいる。人見知りな子もいて、スタート時点ではみんなどこかよそよそしかったって、担任の先生が教えてくれた。
その雰囲気を変えたのは伊都だったらしくて。
誰とでも話す。
どこの輪にも打ち解ける。
そんな伊都に学級委員の大役が回ってきたそうで。
三者面談の第一声が「あの、うちの伊都に、学級委員、できてますか?」だったもの。
だって、伊都ってやっぱり一人っ子だからか、あ、いや、一人っ子が全てってわけじゃないと思う。ちゃんと周囲のことを考えて、しっかりできる子もいると思うんだけど。どこか伊都はマイペースで。この思春期だってそう。みんなそれなりに異性を気にしたり、その異性に好かれたいとか思い始める頃だと思うけど、そういうのちっともで。
けれど、担任の先生はしっかり学級委員をしてくれているって言ってた。可能なら後半も伊都に学級委員としてクラスをまとめて欲しいって。
「……ふ」
「? 睦月?」
なんだろ。急に睦月が笑ってる。
首を傾げると、睦月が空になったグラスにビールを注いで、俺のグラスにも注いでくれた。
「いや、千佳志さん、心配性だなぁって」
「えぇっ」
「いや、俺も心配です。伊都、めちゃくちゃマイペースだし。あんまりペラペラ話す方じゃないし」
「そう!」
そうなんだ。自分のことを思ってること感じてることを全部は話してくれないタイプ。伝えてはくれるけれど、それはきっと本人が抱えてること、思ってることの半分程度男じゃないなかなって。
「そういうとこ、千佳志さんにそっくりだなぁって」
「え、えええっ?」
俺も?
驚いて、俺自身を指さすと、またおかしそうに笑って、コクコクと頷いた。
「けっこう、千佳志さんもそうだから」
「……」
「いや、けど、思ってること、俺は全部表情でわかりますよ」
「……」
え、えぇ……それは、それで。なんだか百面相してるみたいで、変な人、じゃない?
「あと、千佳志さんも浴衣にショルダーバック持ちそう」
「そ、それはさすがにしないよー」
「……でも、スイミングの見学場所、わからなかったでしょ?」
「あ」
確かに。
そうだったっけ。
そう、そうなんだ。
初めて、睦月のいるスイミングスクールに行った時、保護者とかが見学する場所がわからなくて、生徒が着替えをする更衣室の前にあるベンチに一人ポツンと座って眺めてしまった。今考えると、けっこう恥ずかしいし、どうしてちっとも不思議に思わなかったんだろうと思ってるくらい。だって、保護者が一人も見学してないのに、少しもおかしいと思わず、生徒の更衣室の前にいた。本来は三階に保護者が見学するスペースがあるのに。
「あの時の感じ、伊都もしっかり受け継いでる」
「えぇ」
懐かしそうに目を細めた睦月の横顔を赤色の花火が鮮やかに彩った。
「すごい綺麗な人だなぁって思った」
「お、俺?」
頷いた。
そんなこと、ないでしょ? ただのシングルファーザーのサラリーマンだよ。
「同じ男なのにそう思ったことにちょっと驚いた」
「……」
「で、そんな綺麗な人なのに、ちょっと抜けてて」
俺も、よく覚えてる。
「可愛い人だなって思った」
かっこいいな、この人が、伊都の先生になるのかって。
頼り甲斐がありそうで、笑うと太陽みたいで。伊都に笑ってくれた顔が、すごく印象的で。
「で、話してみるととすごく心地良くて」
それは、俺も、だよ。
「ちょっと探してみたりして」
それも、同じ。
「今はその人とこうして花火を特等席で観られるんだなぁって」
「……」
帰り道、ずっと、睦月の笑った顔がちらついたんだ。
「ちょっと、嬉しい……です」
あの時は思いもしなかった。
「……」
その時、夜空の高いところまでうち上がる空気を割くような音が聞こえた。長く長く。
すごく長く。
どこまでも高く。
「千佳志の浴衣姿、最高です……」
そして、パッと夜空が明るく輝いて。
火花が睦月の瞳の中でキラキラと輝いた瞬間――。
「……」
唇が触れて、心臓がドンと跳ねるように、夏の夜空に花火の音が響き渡った。
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