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うさ耳クリスマス篇 7 しーっ、お静か

「それでね! ケーキがアイスになってて、ちょっと寒かったんだぁ。でも、美味しかったよ。皆でゲームして。カードゲームとかもあった。あと、玲緒君のうちには大きな猫がいて、すっごく変な顔してた。パンチ食らったみたいな顔」  ペルシャ猫、かな。  伊都がパンチって言ったタイミングで、実際にパンチをしてみせたら、お風呂のお湯がピシャリと跳ねた。  クリスマス会はとても楽しかったみたいで、伊都を迎えに行った帰りの車内からずっと、何があったか全てを話してくれていた。プレゼントは玲緒君と交換したらしい。マグネットをとても喜んでくれたようで、すぐに冷蔵庫にくっつけてくれたんだって。伊都は玲緒君からのプレゼント、恐竜が作れるミニキットをもらったから、今度はそれを持参して、玲緒君と一緒に作ると意気込んでいた。  すごく楽しそうで、もっといたかったぁなんて呟かれたくらい。 「今日、睦月と一緒にお風呂入る約束してたのにさぁ。息止め競争しようと思ってたのにさぁ」 「あー、うん。いいじゃん、お父さんでも」  えー? なんて、不服そうな返事をされてしまった。  ごめんね。今日はちょっと、一緒には入れないかな。睦月の肩につけちゃったから。 「二年生になったら、ひとりで入るんでしょ? あとちょっとなんだから、お父さんと一緒に入ってよ」 「仕方ないなぁ」  引っ掻いちゃった。いつもは気をつけてる。俺も、睦月も、お互いの肌に痕を残さないようにしてるんだ。彼はコーチとして上半身裸になるから、そんな時に爪痕も、キスマークもちょっと、ダメでしょ? 俺は、伊都と一緒にお風呂入るからさ、そういう痕はやっぱりないほうがいい。気持ちイイと感じてしまう場所にたくさん彼の唇の痕が残るのはとても魅力的だけれど。  太腿の内側、足の付け根のあたりとか、胸とか、そんな場所にばかり痕跡が残ってるのは、小学生の伊都には、ね。  爪、長かったかな。そうでもないけど。  手を伸ばし、浴槽の縁に手首をおいて,じっと見つめる。そんなに長くはないつもり。いつもこまめに切ってるんだ。睦月とセックスする時に、「あ、待って。切らなくちゃ」なんて言うのはムードないから。  でも、今日は、激しかったから。  俺は声を我慢しなかったし、睦月も我慢することなく激しく奥まで来てくれたし。何度も、俺の中で果ててたし。 「……」  思い出しちゃ、ダメだったな。 「お父さん? 顔、真っ赤だよ?」 「のぼせたかな。で、出ようか」 「うん。そうだ。お父さんは?」 「んー?」  ざぱっと湯船から立ち上がると、水がボタボタと落ちる音。 「お父さんは何してたの? あ、あははははは、なにそれぇ。お父さん、お尻が真っ赤になってる」 「え?」  伊都がとても楽しそうに笑っていた。 「ほら、お尻の、上のところ、まんまるく、真っ赤だよ」 「!」  言われて、曇って何も見えない大きなガラスにお湯をかけてまでたしかめて、言葉が出てこなかった。 「あはははは」  尾てい骨のところに本当に綺麗に丸く、肌が赤くなっていた。 「尻尾みたぁい」  何も言えないよ。 「な、なんだろうねぇ」  本当にそこに尻尾をくっつけてた、なんて。 「睦月―!」 「あ、ちょ、伊都!」  伊都は勢いよく湯船から飛び出ると、バスタオルで雑に身体を拭き、リビングでのんびりしているはずの睦月のところへ、裸のまま駆けていってしまう。捕まえようと思ったけれど、彼の目の前に裸で飛び出すのはさすがに躊躇われて、伊都を捕まえそこねた。 「わ、伊都? 拭いてないのにこっち来たらダメだろ」  リビングのほうから、睦月の驚いた声が聞こえてきた。まだ湯の雫を滴らせている伊都をたしなめて、身体を拭いているのかもしれない。伊都がバスルームへ戻ってくる気配はない。 「伊都っ!」  それ言わなくていいから! って、ここで焦って、慌てて服を着て追いかけたけど。 「お父さん、尻尾の痕みたいに、お尻が真っ赤なんだよぉ?」 「!」  伊都が睦月にもわかるように自分の丸裸の尻の少し上、尾てい骨のあたりを手でぺちぺちと無邪気に叩きながら笑っていた。 「あー、あははは?」  何も、言えないよ。その赤いところにうさぎの尻尾をくっつけて、留守番していたお父さんと睦月が何をしていたか、言えるわけがない。 「な、なんだろうね。真っ赤だったんだ?」 「うん! まっかっか。あ、でも、睦月も顔がまっかっか」  手で口元を覆い隠すのは恥ずかしい時の彼のくせ。 「あ、お父さんはお尻だけじゃなくて、顔もまっかっか」  そして、二人の大人は純粋で無邪気な息子に指摘されて、返事の言葉も見つからず、ただ黙って照れて茹タコになっていた。 「ごめんね……爪、次の仕事の日までに治るかな」  伊都は、朝からクリスマスのことでおおはしゃぎだったから、お風呂で温まると一分もかからないうちに熟睡だった。 「いいですよ。別に」 「ダメでしょ」  俺は、今、睦月の身体を座椅子代わりに寄りかかり、脚の間に居座らせてもらいながら、爪を少しだけだけれど切ってもらっている。 「千佳志さんは……大丈夫だった?」  低い声は伊都を起こさないように、少しだけトーンを抑えているからか、肌をなぞられるような色気が混ざっていて、後ろから抱き締められているのと変わらないこの体勢で聞くには刺激が強くて。 「激しく、しすぎました」 「だいじょ、ぶ……だよ」  ゾクゾクしてしまう。尻尾をつけた赤いところが、今頃になって、ヒリついてしまいそう。 「千佳志さんって、たまにすごい破壊力で襲うんだもん」 「え? ちょ、俺そんなの」 「しました。今日、俺が帰ってきた時にどんだけぶち抜かれたか」 「ぶっ、ぶちっ」 「眩暈しましたもん。うさ耳つけて、俺のパジャマだけで生脚晒して」 「なっ、生脚って、別に」 「普段だってエロい身体してるのに、バックでしてる時なんて、綺麗で細い背中くねらせたりして、うさぎのまんまるな白い尻尾つけて、その尻尾が突く度に揺れて、そんで、俺のを……って、もうあれです。肌なんて触れたら、もう本当に、最高で」 「エロって、お、俺は別にっ」 「エロいですっ」  きっぱりと言い切られて、返事に困るじゃないか。 「そ、そんなこと思うの、睦月だけだよ」 「俺だけじゃ、不服なんですか?」 「そんなわけないだろっ! 俺は君だけっ」 「……」 「もう……意地悪だ」 「貴方がエロくて可愛いから、意地悪したくなるんです。俺、いじめっ子気質じゃないですよ?」 「どうだか」  そんな文句は彼の唇に奪われてしまった。 「貴方の爪痕、嬉しかった」 「……」 「また、そのうち」  いやだよ。恋しい君の肌に自分の爪でもなんでも傷なんてつけたくないよ。 「貴方のものだって印を残して?」  ズルい恋人だ。そんなおねだりをされて、嬉しくならない人はいないって、知ってるくせに。君を独り占めしているんだっていう印を残していいなんて、なんて、魅惑なお誘い。 「じゃあ、また、君の痕を俺の中にも残して?」 「千佳志さん?」 「君の痕を、俺の中に、たくさん、ちょうだい?」 「! もおおおお! 千佳志さんっ!」 「睦月! しーっ!」  そして、静かになるリビング。寝室のほうから物音も、伊都が俺たちを呼ぶ声も聞こえてこないことを確認してから、思わずふたりで笑い出した。 (千佳志さんが煽るから) (なっ、睦月が) (千佳志さんが) (睦月だってば)  そんなコソコソ声と小さな笑い声、それと、甘いリップ音が平和で穏かなリビングに、こっそりと、ひっそりと、響いていた。

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