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02明日、私が救いを求めたら

「まだヴァニタス・アッシュフィールドも元ラスティル国王も捕獲できねぇのかよ。アンタそれでも元大学教授?生前50代の中身オッサン?マジで?」 “魔王”と呼ばれる転生者は笑う。 中学生で死んで転生した“魔王”は、100年以上もの間、この世界に存在し続けている。 転生前の年齢と合算しても68歳にしかならない私よりも魔王の方が随分長生きな筈なのだが、魔王の精神は中学生のままだ。 魔王の心は、時を止めてしまっている。 「はい、申し訳ございません。魔王様」 「今回のラスティルの転生者の2人のうち、1人は役立たず。もう1人は低能低スペックのオッサンとはなぁ……」 「面目次第もございません」 もう1人のラスティル王国の転生者……ヴァニタスの事には触れずに、私は魔王に頭を下げる。 ヴァニタスをこちら側に巻き込む訳にはいかない。 なぜなら、ヴァニタスは孝憲に似過ぎているのだ。 最初は性格や口調が似ているだけだと思った。 だが、彼の書く小説までもが、かつて孝憲の執筆した小説にあまりにも似すぎていた。 高校時代、図書館で見せてもらった孝憲の小説よりもヴァニタスの小説は洗練されていたが……しかし、作品の主軸となる信念は孝憲のそれだった。 ヴァニタスが孝憲本人か、似ているだけの別人なのかは、まだ判断できない。 いや、……恐ろしくて聞けないという方が正しい。 だが、ヴァニタスが孝憲本人でも、孝憲にそっくりなだけの別人の転生者でも、それでも私はヴァニタスを守らなければならない。 馬鹿正直で正義感の塊のヴァニタスに、魔王の手先が務まる筈がない。 私がヴァニタスよりも先に前世を取り戻し、魔王が先に私にコンタクトを取ったことは幸運だった。 「で、柚希さんは? ラスティルで見かけてない?」 柚希颯志。 魔王と共に100年以上の時を生きた転生者。 だが、魔王と柚希颯志は思想が全く噛み合わない。 魔王はこの世界の人間も前世同様醜悪だと断じて、人間に復讐することを望んでいる。 柚希颯志は新たな転生者たちを“弟”と呼び、“弟”たちがこの世界で幸福である事を願う。 柚希颯志が魔王ですら“弟”として接した事で魔王は柚希颯志に懐いている。 だが、柚希颯志にとって魔王は、たくさんの“弟”のうちの一人でしかない。 故に柚希颯志は魔王の意に反して自由に出奔して何処かに旅立ってしまうし、依存しているとも言える唯一無二の“兄”が自分を置き去りにして出奔する事に魔王は苛立つ。 面倒なことになってしまっているとは思うが、私たちでは柚希颯志の捜索は不可能に近い。 柚希颯志は人間ではなく、モンスターとしてこの世界に転生してしまっているのだから。 「見かけておりません」 「そ? じゃあ見つけたら即捕縛してこっちに送り返して」 プツンという音と共に鏡が真っ黒になり、銀色に戻るとこの世界での私、スピルス・リッジウェイの姿を映し出した。 「ヴァニタスとの会談は明日……」 ヴァニタスも元国王も私が魔王の手先であると気づいているのだろう。 私も魔王の手先のような真似はしたくない。 「これではまるで、私が囚われの姫君のようではないですか……」 鏡に手をついて苦笑する。 ヴァニタス。 明日私が救いを求めたら、貴方は手を差し伸べてくれますか? ヴァニタスを守りたいと思っているのに、ヴァニタスに助けを請う矛盾した自分の醜さに嘲笑する。 「孝憲…………」 明日、私が救いを求めたら……貴方は私を助けてくれますか?

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