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04大仰な家族会議
「転生者……か」
「俺たちにももしかしたら前世とやらがあるのかもしれないが、とりあえずは一定の条件を満たした者しか前世の記憶は思い出せないみたいだ」
セオドアの説明に、親父は頷いている。
親父は根っからの悪人ではないのだ。
そもそも、『アルビオンズ・プレッジ』内でモブ敵の俺を地下水脈の入口のボロ屋敷に配置し、アッシュフィールド公爵家側の屋敷に自身が立ったのも、ラスティル王国に忠誠を誓っているが故だ。
魔物が成り代わった王の命令とはいえ、国の為に自らの命を投げ出した男なのだ、『アルビオンズ・プレッジ』の親父は。
「つまり、ラスティル王国を守る為にヴァニタスの幽閉を解いて欲しいと?」
「そうだ。マドリーンの正体が明らかとなった今、ラスティル王国の危険度は高まった。魔王は次の手を打ってくる筈だからな。戦争が起きる可能性だってある。尚更ヴァニタスの力が欲しい」
そうだ。
マドリーンの正体が明らかとなったという事は、転生者が潜り込んで内側からラスティル王国を壊す計画が潰れたという事だ。
次は、外側からラスティル王国を壊す……戦争が起こる可能性もある。
アリスティア王国が滅ぼされたように。
親父は唸る。
「ラスティル王国におけるアッシュフィールド公爵家の扱いはどうなるのです? マドリーンは魔王の配下として動き、私はそれに気づかずマドリーンをアッシュフィールド公爵家に招き入れた。そしてシルヴェスターはマドリーンの息子だ」
「ならば交換条件といこう。貴公はヴァニタスを幽閉から解放し、悪魔憑きの噂は嘘で療養の為に離れ屋敷に住まわせたと公言する。ラスティル王家側はアッシュフィールド公爵家を罪に問わない。貴公も、マドリーン公爵夫人も、シルヴェスターも」
「そんなにもヴァニタスが必要なのですか?」
「あぁ。ラスティル王国の守護の要となるかもしれない」
親父とセオドアは真剣な話をしているんだけど、正直ちょっと恥ずかしい。
勿論、それだけ責任重大ということもあるのだけれど。
「…………わかった。ヴァニタスの幽閉を解こう。そしてヴァニタスは悪魔憑きだから幽閉したわけではなく、療養の為に離れ屋敷に住まわせたと宣言する」
良かった。
だが……。
「親父。マドリーンさんはどうする気だ」
「…………」
俺は正直、この家族会議までマドリーンに良い印象は持っていなかった。
でも、転生前が猫と知って拍子抜けしたというか、何というか。
ん?
おかしい。
当然ながら、俺やスピルスよりマドリーンの方が年上だ。
柚希が言うように俺やスピルスを切り捨ててマドリーンを潜入させたなら、年齢が合わない。
マドリーンは親父と不倫する時既に魔王の配下だった筈だ。
「まだ、ラスティル王国の内側にも転生者がいる……?」
「可能性はあるな」
セオドアが頷いた。
「内側の調査もしなければならない。協力してもらうぞ、アッシュフィールド公爵」
「勿論。ところで、離れ屋敷はどうするのです? ヴァニタスは城に詰めるのでしょう?」
「あぁ、そうなるな」
「マドリーン、お前はどちらにつくのだ。魔王か? 私たちか?」
マドリーンは俯いた。
暫しの間、座が沈黙する。
「私は、人間が嫌い。人間を恨んでる」
搾り出すような声で、マドリーンが告げた。
「でも、私の大好きな千紗ちゃんやおじいちゃん、おばあちゃんも人間だった」
マドリーンはゆっくりと顔を上げると、シルヴェスターの方を見る。
そしてにっこりと微笑んだ。
「それに、私は今は母親だということを思い出したの。シルヴェスター、ごめんなさい。寂しい思いをさせて。私は千紗ちゃんの母親のような、酷い親になりかけてた。いいえ、既になっていたのかもしれない……」
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