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05大仰な家族会議

「母上……母上は私を愛していますか?」  シルヴェスターの問いに、マドリーンが頷いた。 「勿論」 「ならば許します。貴女に不満を持たなかったかと問われたら嘘になります。でも、貴女は貴女なりに苦しんできたのでしょう? 前世で、不幸の連鎖を目の当たりにして」  難しい問題だ。  千紗を追い詰めたのは彼女の両親だが、その母親を追い詰めたのはかつてのマドリーンが愛した祖父母だ。  この連鎖の問題を見て尚、祖父母を愛せるのか……とても難しい問題だ。  マドリーンは親父へと向き直る。 「私は人間側につきます。人間への復讐なんて意味がなかった。私自身今は人間で、多くの人を傷つけた、復讐されるべき母親です」 「母上!!」  マドリーンは首を横に振る。 「加害者になってしまったから理解できるの。人間はそもそも間違える生き物だ。この先の未来、私は間違えた者に手を差し伸べられる人間に私はなりたい」  マドリーンの微笑みは、聖母のように穏やかだった。  前世は猫だ。  きっと人間の前世を持つ者より、純粋無垢で素直なのだろう。 「信じて良いのだな?」 「はい」 「わかった。シルヴェスター、しばらく離れ屋敷に住んでマドリーンを監視してくれないか?」 「母上を離れの屋敷に置くと」 「あの屋敷を放置はできないからな。だが、マドリーン一人を配置するのは不安だ。また魔王と連絡を取るんじゃないか……とな」  マドリーンはその言葉にも動揺しない。  まるで言われるとわかっていたかのように。  聡明な女性だと思った。 「畏まりました。暫く離れの屋敷で母上をお守りします」 「だが、籠もりきりでは困る。ヴァニタスが国の守護を担う以上、アッシュフィールド公爵家を継ぐのはシルヴェスター……お前なのだからな。後継者教育は引き続き受けてもらう」  親父はマドリーンと少し距離を起きたかったのかな?  それとも、マドリーンとシルヴェスターに親子水入らずの時間を作りたかった? 「ヴァニタスには、城に部屋を用意する」  セオドアの言葉に頷いた。  俺にも巣立ちの時がきた。  もうあの心地良い屋敷に籠もってばかりではいられない。  俺のモラトリアムは、別の意味でもう終わりなのかもしれない。  それでも……。 『ひとつだけ……お願いがあるんだ』  わかってる。  もう一人の俺。  地下水脈で邂逅したヴァニタス・アッシュフィールド少年。 『恋愛小説を書いて欲しいんだ』  あの時、俺は思わず固まった。  恋愛小説は、俺が赤津孝憲だった頃から苦手なジャンルだったから。 『知ってるよ。君が恋愛小説が苦手だってことは。だから今すぐじゃなくてもいい。今回の生でゆっくりと恋愛について探求して、人生を終えるまでに最高の恋愛小説を執筆して』  この約束は、必ず果たす。  モラトリアムが終わっても、この約束は必ず果たすから。  俺は必ず、恋愛小説を書き上げる。  絶対に。

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