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タイムリーパー
また、間違えた。
また、間違えた。
今回もまた、間違えた。
ラスティル王国はどう足掻いても滅んでしまう。
父さんも、母さんも、リヴェリアも死んでしまう。
唯一、ユスティートだけは生死不明な時間軸がいくつかあった。
でも、ラスティル王国が滅んでしまっては意味がない。
今回の時間軸はイレギュラーの連続だ。
ユスティートがセオドア様の養子になり、そして王位を継いだ。
あり得ない。
セオドア様が同性愛者で……スヴェン・マードックを愛していて、その為に結婚できなかったのは知っている。
ユスティートはこれまでの時間軸でも何度か養子候補には上がっていた。
もう一人の養子候補として、ヴァニタス・アッシュフィールドの名前も上がっていた。
王家の血を色濃く継いでいるからだ。
ゴリ押ししたのはナイジェル・アッシュフィールド公爵。
今回の時間軸ではそのアッシュフィールド公爵が、王位継承者にゴリ押しする筈の息子、ヴァニタス・アッシュフィールドを幽閉した時点で大きくズレが生じた。
俺、ジェラルド・ティアニーに前世の記憶はない。
だが、転生者の存在は把握している。
時間逆行の魔法が使える俺は、ラスティル王国の滅びを回避する為に何度も時間を繰り返しているからだ。
マドリーン・アッシュフィールドは根っからの悪人ではない。
彼女は元が猫なのだ。
純粋無垢な獣なのだ。
ラスティル王国が滅びた時に彼女が生還している時間軸では彼女はいつも後悔していた。
その彼女から俺は転生者の情報を得ていた。
ヴァニタス・アッシュフィールドが幽閉されていた、アッシュフィールド家の離れ屋敷で行われた会談で、柚希颯志がこう言ったらしい。
この世界で前世を思い出すには条件がある。
“前世が21世紀の日本、あるいはそれに近いパラレルワールド”
“前世で『アルビオンズ プレッジ』のゲームをプレイしているか、していなくても内容をだいたい把握している”
“前世が悲惨だったり、前世で苦しんだり、悔いが残ってる”
この条件に該当すると、遅かれ早かれ前世の記憶を取り戻す。
長い年月を生きてはいるが、時間を繰り返しているわけではない柚希颯志の目線からではそうなるのだろう。
何度も時間を繰り返している俺の解釈は違う。
ヴァニタス・アッシュフィールドが転生者として前世の記憶を取り戻すのは、俺が知る限りでは今回が初めてだ。
ヴァニタス・アッシュフィールドは殆どの時間軸で父親の操り人形として生きて死ぬ。
あんなに活き活きとしたヴァニタス・アッシュフィールドを見たのは初めてかもしれない。
一方、スピルス・リッジウェイが転生者としての記憶を取り戻す事は少なくない。
だが、スピルス・リッジウェイが転生者の記憶を取り戻してもヴァニタス・アッシュフィールドが記憶を取り戻さなければ、今回のような奇跡は起きない。
今思えば記憶を取り戻したヴァニタス・アッシュフィールドと出会わないことによりスピルス・リッジウェイは自暴自棄になっていたのかもしれない。
スピルス・リッジウェイの策略によりラスティル王国が滅ぼされた時間軸もまた、決して少なくはないのだ。
このように、転生者が記憶を取り戻すかどうかは賭けや運任せの要素がある。
俺が知らないだけで、マドリーン・アッシュフィールドが前世を思い出さなかった時間軸や、他のラスティル王国民が前世を思い出した時間軸もあったのかもしれない。
そう。
今回の、この時間軸は奇跡の時間軸なのだ。
スピルス・リッジウェイもマドリーン・アッシュフィールドも事を起こすまでに改心した。
その中心にいるのはヴァニタス・アッシュフィールドだ。
ヴァニタス・アッシュフィールドを守らなければならない。
時間を遡るのは、もう終わりにしたい。
今度こそ。
この時間軸でこそ。
ラスティル王国を、俺の家族を守り抜くのだ。
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