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空白の憤怒の行く末
優が殺された。
サッカー部の連中に。
第一発見者は俺だった。
サッカーボールを収納する金属製の整理カゴ、キャスター付きの。
その整理カゴをひっくり返した檻の中。
整理カゴから出られないようにたくさんのダンベルを乗せられた、その中で。
優は傷と痣と泥と砂と埃と精液塗れで、死んでいた。
優の両親は『被害者の親』として騒いだ。
連日ワイドショーに出演して、サッカー部の残虐な虐めと、まともに対応しようとしない学校や教師、顧問や教育委員会を激しく糾弾した。
でも、俺にとっては優の両親も同罪だった。
絵を描くのが好きで、運動が苦手で、美術部に入りたかった優を「絵なんかで稼げるわけがない」とぶん殴って、無理やりサッカー部に入れたのは優の両親だ。
運動が苦手な優を運動部に入れたら、虐めの標的になることなんか目に見えていたのに。
優の両親は自分たちの加害性は棚に上げて、私たちは『被害者の親』……即ち被害者なのだと叫ぶ。
サッカー部の顧問と俺の担任教師は、第一発見者の俺を黙らせて事件を隠蔽しようとした。
事件について口外したら内申を下げるとか、志望校に推薦しないとか言って。
俺は絶望した。
優を殺した世界と、自分に。
俺が優の手を取って逃げれば、きっと優は死ななかった。
でも、俺にはそれが出来なかった。
俺自身も、両親に美術部に入るのを反対されて、反対を押し切る勇気もないまま弓道部に入った雑魚だったから。
優の手を取って逃げる勇気が俺には無かった。
だから俺は殺した。
サッカー部の連中を、優の両親を、サッカー部の顧問と俺の担任を……そして俺自身を。
小麦粉を使った粉塵爆発で木っ端微塵にした。
許せない奴らを全員殺した。
俺自身も含めて。
けれど俺は転生してしまった。
この世界に。
前の世界の人間と大差ない人間が蔓延るこの世界に。
絶望したさ。
自死しようとも思った。
それを止めたのが柚希さんだった。
柚希さんは俺を抱き締めて言った。
「ごめんね。本当は俺たち大人が、響哉君と優君を助けなければいけなかったのに、助けられなかった」
「今度こそ、俺は響哉君を救うから。お兄さんが、君たち“弟”を絶対に守るから」
なのに……。
「何故だ、柚希さん。どうして人間たちの味方をする。何故ラスティル王国に肩入れするんだ」
柚希さんがラスティル王国に肩入れしたことで、スピルス・リッジウェイを絡めた計画も、マドリーン・アッシュフィールドを絡めた計画も破綻した。
「貴方は今までは人間と俺、どちら側にも加担しなかったじゃないか……」
柚希さん。
ずっと探していた。
やっと姿を表した貴方は、俺を裏切っていた。
人間側に加担して、ラスティル王国を救う為に動いている。
何故だ。
ラスティル王国にそこまでする価値があるのか?
それとも、ヴァニタス・アッシュフィールドか?
奴にそこまでの価値があるのか?
「許せない……」
許せない。
許せない。
許せない。
柚希さん、貴方が許せない。
貴方を奪ったラスティル王国と、ヴァニタス・アッシュフィールドが許せない。
「ラスティル王国は必ず滅ぼす。ヴァニタス・アッシュフィールドには死よりも辛い苦痛を味あわせてやる……」
そして柚希さん。
今度こそ貴方を閉じ込める。
もう何処にも行かないように、俺の傍から離れないように。
「柚希さん。後悔してももう遅いから」
俺を一人にした貴方が悪いんだ。
俺を裏切った貴方が悪いんだ。
絶対に絶対に許さない。
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