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02巣立ち
柚希と共に地下の湖へと向かう。
メモリアが、幼少期の変わらぬ姿でそこにいた。
「ヴァニタス、元気ないわよ」
「ヴァニタス君はもうすぐこの屋敷を出るからって、しんみりしている最中」
「あら? お城に行ったらスピルスと会う機会が増えるって聞いたけど?」
賢者スピルス・リッジウェイは領域魔法をラスティル王国全域に展開・維持する俺のサポート役も担ってくれるらしい。
お前、宮廷魔法師団の師団長とかじゃなかったっけ?
師団長としての仕事はいいのか?
俺としてはまぁ……嬉しいけど。
「でも、それはそれ。これはこれ。やっぱりこの屋敷には思い入れが深いんだよ」
長くも短かった月日。
様々なものを錬成した。
庭で野菜や果物を錬成して、それでマチルダが料理やスイーツを作ってくれた。
最高に美味しかった。
スピルス、ユスティート、スヴェンと共にこの地下を攻略した。
懐かしい。
今では俺のトレードマークとなった純白の司祭服と赤のストラを纏ったきっかけが、この地下の攻略だった。
ユスティートはスヴェンと師弟のような関係を築いていたっけ?
俺の中にヴァニタス・アッシュフィールドの7年間の記憶が蘇ったのも、攻略の最中だった。
この世界で生まれたヴァニタス・アッシュフィールドと俺、赤津孝憲の邂逅も。
そして、恋愛小説を書くという約束も。
あの時敵対したメモリアとは、今はこうして友人のような関係を築けている。
「いつでも顔を出せるんでしょ? 元気出しなさい。だいたいアンタ、こんな屋敷に引き籠もってるような器じゃないでしょ?」
「前世はバイトの時以外は部屋に籠もって小説書いてた引き籠もりだったんだけどな」
でも、今世では大切なものが多すぎる。
守りたいものが多すぎる。
引き籠もり生活を自ら手放しても良いと思えるくらいに。
「良い顔になってきたじゃない?」
微笑むメモリアにつられて俺も笑った。
だが……何かが引っ掛かった。
何だろう…………あ!
「お家騒動って、そういえば……何だ?」
『そういえば、スヴェン様は陛下がお家騒動に巻き込まれて国外に避難した時、護衛をされたことがあると噂で聞きましたが』
『えぇ……真実です。国王になった時に騎士か護衛になるよう頼まれたのですが、断りました。しかし……』
『王が魔物に襲われる、殺されるなら話は別……と』
いつかのスピルスとスヴェンの会話をふと思い出した。
そういえば、セオドアの親や血縁者は?
いや、俺や母親のレオノーラが血縁者であることは知ってるんだけど。
あと、ユスティートの婚約者候補に上がってるウィリディシア王女だっけ?
ティアニー公爵家も王家の血縁者だったよな?
だが、不自然な程にセオドアの親兄弟の話を聞かない。
俺は一応、王位継承者候補らしいのに。
城に行くという、今の段階になっても話を聞かない。
まぁ……俺は筋金入りの無知な箱入り令息だからな。
城に行けば、そのあたりの情報も耳に入って来るのだろうか?
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