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01謁見

「ヴァニタス……貴方に会うのは久しぶりだ。まさかこの城で会うことができるとは思わなかった」 「ユスティート陛下におかれましては……」 「やめてくれ。今この場では無礼講といこうじゃないか」 「では改めて……久しぶりだなユスティート。元気そうで良かった」 「貴方こそ……元気そうで良かった」  成長期のユスティートは本当に背が伸びた。  それに穏やかな表情だが威厳がある。  誰も子供が玉座に座ってるなどと言って侮らないだろう。  いや、侮る奴がいるのか。  俺はユスティートの傍に立つ見慣れない男を見た。  アレクシス・ピンコット。  宰相であり、マドリーンの弟だ。  今のところは、涼しい瞳で俺を見ている。  転生者かどうかの判断は難しい。 「婚約の話が出ていると聞いたが……」 「それは……」  此処でアレクシスの瞳が光った。 「そうなのです。とても良いお話があるのです。ヴァニタス様とも縁戚関係となるロータリア王国の王女、ウィリディシア様との縁談が来ているのです。私としては是非ともこのお話を進めていきたいのですが……」 「剣術や勉学はともかく、色恋沙汰は……。もちろん王として必要な事だとは把握しているが……」  セオドアはその結婚が出来なかった。  だから玉座を離れなければならなかった。  その意味を、ユスティートは理解しているのだろう。 「とりあえず、文のやり取りでもしてみたらどうだ?」 「文?」 「ウィリディシア王女と。悩んで動かないまま時間が経過してしまうよりよっぽど良いと思う」  手紙で嘘を吐くのはなかなか難しい。  やり取りを重ねれば重ねる程、本音が漏れてしまうものだ。  ウィリディシア王女が転生者なら、文のやり取りを続ければ必ず尻尾が出る。  …………というのをアレクシス宰相の前で言うのは拙いか。  後でスヴェンを介して伝えてもらおう。  セオドアはユスティートの隣……多分本来は正妃の座に座っている。  スヴェンはアレクシス宰相の隣に立っている。  アレクシス宰相が再び口を開いた。 「私もヴァニタス様のご意見に賛成です。流石は我が国とロータリア王国の血を受け継ぐ方。慧眼でございます」  別にアレクシス宰相の後押しをしているわけじゃないんだけど。 「かつて『アッシュフィールド公爵家の悪魔憑き』と呼ばれた人間が肩に黒猫のぬいぐるみを乗せて現れた時はやはり狂人だったかと戦慄したものですが」  …………本当に後押しなんかしたくないんだけど、こいつの。 「(ソルティード落ち着け、セオドアの前だぞ)」  小さな声で呟くと、ソルティードは不服そうだが大人しくなった。 「宰相、その件は誤解であったとアッシュフィールド公爵家から報告を受けている。ヴァニタスは療養で離れ屋敷に住んでいただけだ。悪魔憑きではない。私もヴァニタスとは知己の仲だ。彼は博識で聡明だと私は知っている。いくら無礼講とはいえ、狂人という言葉は彼に対して失礼だ。取り下げてもらいたい」 「はっ。申し訳ございません」  あの小さかったユスティートがちゃんと王様してるんだなと思うと、微笑ましくなる。  …………まるで子供の成長を喜ぶ父親みたいだな。  しかし、やはり何処かひっかかるな……アレクシス宰相。  もちろん、姉であるマドリーンが長年親父の愛人の座にいて、悪女だなんだと責められて、そのせいで俺を憎んでいるだけとも受け取れるが……。

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