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03謁見

「成程、アレクシス宰相が転生者である可能性が……それでさっきの言動なのか……」 「陛下の御前で申し訳ございません」  柚希が深々と謝罪する。  ユスティートは微笑んだ。 「先程は驚いたが、これで納得出来た。ユズキ殿、謝る必要はない。先に失礼な発言をしたのはアレクシス宰相の方だ」 「アレクシスを宰相に任命したのは俺だ。謝るべきは俺の方だ」  ユスティートの隣でずっと黙っていたセオドアが口を開いた。 「しかし、あの言動……かなり黒寄りだな」  ユスティートが溜め息を吐いた。 「転生者の可能性は高そうだ」 「マドリーンの話で察しはついていたが、アレクシス宰相が転生者だとしても、姉のマドリーンとは連携は取れていないな」 「むしろ姉が転生者だと知らないような口調だった」  スピルスに俺以外の転生者の存在を伏せていたように、森野響哉はアレクシスには姉が転生者だという事を伏せていたのだろう。 「森野響哉は人間を引っ掻き回す事については天才的だな」 「…………それだけ人間を恨んでいるからね」  柚希が寂しそうに呟いた。  柚希にとっては森野響哉は大切な“弟”のうちの一人なのだ。 「ヴァニタス、アレクシスが転生者で魔王側の人間だとすると、ウィリディシア王女との縁談の話は……」  あぁ、そうか。  今、アレクシス宰相はいない。 「さっきも言った通り、文を交わしてみたらどうだ? 文章で自分を偽るのはなかなか難しい。文を重ねれば重ねる程、どうしても素の自分が出てしまう」 「ヴァニタスのその言葉には重みがあるな。今も物語を書いているんだろう?」  ユスティートは俺が小説を書いていることを知っている。  幼い頃、離れ屋敷で何度か見せたことがある。 「あぁ。“ラスティルの大結界”を張り終えたら、此処でのんびり腰を据えて書かせてもらうぜ」  ラスティル王国に結界を張る計画。  通称『“ラスティルの大結界”展開計画』。  当然、国王であるユスティートは把握している。 「それは良い。書けたらまた読ませて貰いたい」 「…………あぁ、勿論」  ちょっと悩んで、そう答えた。  幼い頃とは違い、今のユスティートに小説を見せるのは正直恥ずかしい。  だが、この世界にインターネットやSNSはない。  読んでもらうなら、原文をそのまま手渡しだ。  恥ずかしいけど、なるべく多くの人に読んでもらうにはその恥ずかしさに耐えるしかない。 「仮に、アレクシス宰相が転生者ではなかったとしても、ヴァニタスに悪い感情を持っていることは間違いないでしょうね……厄介なことだ」 「居住区には結界を張ったから大丈夫だぞ、スヴェン」 「問題は居住区から出た時だ。まだ王宮全体に結界を張ったわけではないのだろう?」  確かに、居住区から出た俺は結界に守られていない剥き出しの状態だ。  だから柚希は、俺がソルティードに仮初めの身体を与えることに反対しなかったのかもしれない。 「ヴァニタス。王宮内でも極力ユズキ殿やジェラルド兄さんを連れ歩くように。危険だ」  そうか……忘れてたけど、ユスティートはジェラルドの弟だったな。 「ユスティートも気をつけろよ。アレクシスが転生者だった場合、奴の最終的な目的はこの国の乗っ取りか壊滅だ」  そうなった場合、真っ先に狙われるのはユスティートだ。  ユスティートもそれがわかっているのか、深く頷いた。  アレクシス宰相。  今はヘイトが俺の方に向いているだろうが……いや、柚希の方か?  それとも柚希はわざと挑発して自分にヘイトを向けさせた?  マドリーンや離れ屋敷の連中とも情報共有が必要だな。  柚希の為に作った転移魔法陣……起動テストも兼ねて一度あっちに戻ってみるか。

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