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01里帰り

「ヴァニタス!?」 「え!? ちょっと、ヴァニタスどうしたの!?」 「アルビオン、メモリア久しぶり。おぉ~、転移魔法陣はちゃんと稼働してんなぁ」  とりあえず、一安心だ。  目的のうちの一つは果たせたと言っていい。 「メモリアはともかく、アルビオンはどうして此処に?」  久しぶりの友人たちとの再会に、思わず顔が綻んでしまう。 「メモリアに、マチルダさんがマドリーンさんと一緒に作ったスコーンのお裾分けにー。ヴァニタスも食べる?」 「食べる!!」 「お兄さんは湖に浸かってくるね。うわぁい、ひさびさの湖だぁ」  柚希は変身を解いてスライムの姿で湖に飛び込んだ。  そんな柚希の姿を見ながら、腰を下ろしてジャムをたっぷりつけたスコーンを頬張る。  うん、美味い。 「地下に……湖?」 「すげぇだろ。ソルティードも食べるか?」 「いや、俺は怨霊だぞ?」 「メモリアが食べてんだから、食べれるだろ?」  ソルティードが人間の姿になった。  アルビオンとメモリアの視線が鋭くなる。 「ほら、食べてみろよ」 「いや……あの……」  ソルティードが恐る恐るジャムをたっぷりのせたスコーンを頬張る。 「…………美味い」 「だろ?」  ソルティードは夢中で食べてる。  何かを食べるというのは久しぶりなのかもしれない。  ちょっと可愛いソルティードを微笑ましく見ていると……。 「ヴァニタス……私が言うのも何だけど、そいつアンデッドよ。わかってるとは思うけど」  不機嫌そうなメモリアの指摘。  アルビオンも怪訝な顔をしている。 「ちょっと事情があってさ……」  俺は簡単にソルティードについて、2人に説明した。  アルビオンもメモリアも眉を寄せている。 「正直、ヴァニタス甘い!! ……って言いたいけどー」 「そこがヴァニタスの良いところでもあるものね……困っちゃうわ」  聞き終わった2人は頭を抱えて溜め息を吐いた。  まぁ……俺もそう言われるとは思ったよ。  すると、湖から声が聞こえた。 「ソルティード君がヴァニタス君に危害を加えるなら、黙認したお兄さんの責任でもある。そうなったら…………俺が責任を持って、ソルティード君を始末する」  湖の中で人間の姿に変身した柚希がそう口にしてソルティードを睨んだ。  ソルティードが柚希の視線に僅かに怯えている。  柚希は時々……ちょっと怖いのな。  流石は魔王に一目置かれてるだけある。 「マドリーンとシルヴェスターにはソルティードについては伏せようと思ってる」 「だったら猫の姿はやめた方がいいんじゃない?」 「元猫としてマドリーンは突っ込みたいところはあるわよ」  …………だよなぁ。 「ソルティード。貴方、姿を消せる?」 「…………あぁ」  ソルティードは半透明の姿になった。 「いや、半透明だぞ」  俺が思わずツッコミを入れてしまった。 「ヴァニタスはこの領域の主だからそう見えるのよ。マドリーンやシルヴェスター、マチルダの目には映らない筈よ」  3人の目には映らないのか。  それはそれで、どう振る舞ったらいいのか……難しいな。  でも…………。 「アルビオンには見えるってことだよな?」 「そりゃ見えるよー。俺の目を馬鹿にしないでくれるー?」  アルビオンが此処に居てくれて良かった。  ソルティードを連れて行って、屋敷でアルビオンに遭遇してたら質問責めに合うところだった。

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