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02罪と罰

 メモリアは地下の湖に残った。  離れ屋敷に立ち寄ると、マチルダとマドリーンが泣いて俺を抱き締めた。  どうやら俺は2人にかなりの心配をかけてしまったらしい。  アレクシスとノアが、彼女らを守る為に離れ屋敷に滞在してくれるらしい。  彼らに離れ屋敷を任せて、アルビオンの元へと向かった。  ラスティル王国西の山。  その山奥にある山小屋。  そこにアルビオンはいた。 「俺が要求したのはヴァニタスの首で、生身のヴァニタスじゃないんだよねー」  例の間延びした口調でアルビオンが言う。 「なぁ、アルビオン。お前、俺が死ねば満足か?」 「当たり前だろ!? 全ての元凶はお前……」 「嘘だな!!」  俺の言葉に、アルビオンは口を閉ざした。 「産みの親である俺が死んでも、お前が苦しんだ過去は帳消しにはならない。むしろ憎悪の捌け口がなくなる事で、お前はより苦しむんじゃないか?」 「死にたくないからって適当抜かしてるんじゃねぇよ!!」  アルビオンが叫ぶ。  その声には悲痛な色があった。 「そんなに俺を殺したければ、お前が自ら俺を殺せ。もちろん俺も抵抗させてもらうがな」  俺は、血で魔法陣を描いた金属片を取り出す。  セオドアとの決闘前、メモリアとの模擬戦闘で使用した、あのカードサイズの金属片だ。 「《再錬成》」  魔力を注ぐと、金属片は剣へと変わる。 「ついでに言うと、当然死にたくはないさ。こちとら、まだ肉体的な意味でスピルスと結ばれていないのでね」 「お前の恋愛事情なんか知るか!?」  アルビオンが剣を抜いて俺に向かって振り下ろす。  俺は錬成で作った剣でその攻撃を防いだ。  続いてアルビオンが斬りかかってくる。  俺は剣で防ぐ……あれ?  おかしい。  アルビオンがこんなに弱い訳がない。  アルビオンの剣を、俺なんかが捌ける訳がないのだ。  これではまるで、剣と魔法の世界を知らない現代人が剣を持って暴れているだけだ。  眼の前の男はアルビオンじゃない。  天塚隆斗なのだ。  歌……触手を呼び出して拘束するか。  そう思って口を開いた時。 「アルビオン!! 兄上!!」  シルヴェスターが割り入ってきた。  俺とアルビオンの剣を弾き飛ばし、アルビオンを押し倒す。 「アルビオン!! いい加減に目を醒ませ!!」  パシンッ!!  乾いた音が響いた。  シルヴェスターが、アルビオンの頬を引っ叩いた。 「今、お前はアルビオンなんだ!! 天塚隆斗はあくまでもお前の前世だ!! いい加減に気づけ!! そしてアルビオンとして今を生きる覚悟をしろ!!」 「アルビオンとして、今を生きる覚悟?」  シルヴェスターの言葉に、アルビオンが首を傾げる。  シルヴェスターは頷いた。 「兄上はとっくの昔にヴァニタス・アッシュフィールドとして生きる覚悟をしている!! だからお前は今を生きる兄上には勝てない!! 勝てないんだ!!」

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