109 / 112
02罪と罰
メモリアは地下の湖に残った。
離れ屋敷に立ち寄ると、マチルダとマドリーンが泣いて俺を抱き締めた。
どうやら俺は2人にかなりの心配をかけてしまったらしい。
アレクシスとノアが、彼女らを守る為に離れ屋敷に滞在してくれるらしい。
彼らに離れ屋敷を任せて、アルビオンの元へと向かった。
ラスティル王国西の山。
その山奥にある山小屋。
そこにアルビオンはいた。
「俺が要求したのはヴァニタスの首で、生身のヴァニタスじゃないんだよねー」
例の間延びした口調でアルビオンが言う。
「なぁ、アルビオン。お前、俺が死ねば満足か?」
「当たり前だろ!? 全ての元凶はお前……」
「嘘だな!!」
俺の言葉に、アルビオンは口を閉ざした。
「産みの親である俺が死んでも、お前が苦しんだ過去は帳消しにはならない。むしろ憎悪の捌け口がなくなる事で、お前はより苦しむんじゃないか?」
「死にたくないからって適当抜かしてるんじゃねぇよ!!」
アルビオンが叫ぶ。
その声には悲痛な色があった。
「そんなに俺を殺したければ、お前が自ら俺を殺せ。もちろん俺も抵抗させてもらうがな」
俺は、血で魔法陣を描いた金属片を取り出す。
セオドアとの決闘前、メモリアとの模擬戦闘で使用した、あのカードサイズの金属片だ。
「《再錬成》」
魔力を注ぐと、金属片は剣へと変わる。
「ついでに言うと、当然死にたくはないさ。こちとら、まだ肉体的な意味でスピルスと結ばれていないのでね」
「お前の恋愛事情なんか知るか!?」
アルビオンが剣を抜いて俺に向かって振り下ろす。
俺は錬成で作った剣でその攻撃を防いだ。
続いてアルビオンが斬りかかってくる。
俺は剣で防ぐ……あれ?
おかしい。
アルビオンがこんなに弱い訳がない。
アルビオンの剣を、俺なんかが捌ける訳がないのだ。
これではまるで、剣と魔法の世界を知らない現代人が剣を持って暴れているだけだ。
眼の前の男はアルビオンじゃない。
天塚隆斗なのだ。
歌……触手を呼び出して拘束するか。
そう思って口を開いた時。
「アルビオン!! 兄上!!」
シルヴェスターが割り入ってきた。
俺とアルビオンの剣を弾き飛ばし、アルビオンを押し倒す。
「アルビオン!! いい加減に目を醒ませ!!」
パシンッ!!
乾いた音が響いた。
シルヴェスターが、アルビオンの頬を引っ叩いた。
「今、お前はアルビオンなんだ!! 天塚隆斗はあくまでもお前の前世だ!! いい加減に気づけ!! そしてアルビオンとして今を生きる覚悟をしろ!!」
「アルビオンとして、今を生きる覚悟?」
シルヴェスターの言葉に、アルビオンが首を傾げる。
シルヴェスターは頷いた。
「兄上はとっくの昔にヴァニタス・アッシュフィールドとして生きる覚悟をしている!! だからお前は今を生きる兄上には勝てない!! 勝てないんだ!!」
ともだちにシェアしよう!