8 / 240

第8話 ロジの独白⑤

 ミトは私しか知らない。私のものだ。もし女を知りたくなったらサリナのような女がいい。  しかしそんな事を考えるだけで私の心はざわつく。波立ち嫉妬の嵐がやってくるだろう。ミトは私だけのもの。愛しているんだ。こんな私を誰も知らない。  東京で物理学の会合がある。日帰りできるだろう。サリナにミトを頼む事にした。車が迎えに来る。 「サリナ、今日は手伝いの梅子さんも来ない日だから、ミトの食事を頼むよ。」  出入りの手伝いの梅子さんは週に2回ほど通ってくれる。私が子供の頃から家の中の事をしてくれている。以前はほぼ毎日来てくれたが今は年を取ったし、私も自分のことは出来るから減らしたのだ。梅子さんが疲れないように。 「まかせて、先生。 それとミトにセックスを教えてもいいかな?」  サリナならいいかもしれない。さっぱりした性格だ。ミトが女を知る事は、どうなんだろう?私は複雑な気持ちになった。 「それは本人次第だな。 私が指し図することではないな。」  ミトは私とのセックスしか知らない。他の、しかも女性を知る事は必要なのか。サリナならそれほどジェラシーを覚えなくて済むかもしれない。  その夜、私の方は大失敗だった。以前から馴れ馴れしく寄ってくる女子学生を連れて帰った。学生結婚が破綻していると悩みを打ち明けられて、結局抱く事になってしまった。  ミトに見せつけて、いい勉強になるか、と浅はかな事を考えた。普段の私ならこんな醜い失敗はしない。クールなロジャーの仮面が剥がれかかっていた。  

ともだちにシェアしよう!