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第85話 ミトの思い

 僕は、ロジの膝に乗って首に抱きついて少し泣いた。 「ロジ、ハジメはタカヒロに取られちゃったね。 僕は欲張りなのかな。 ごめんね、ロジがいるのに、こんなに寂しい。」  ロジは優しく膝に抱いて話を聞いてくれる。 髪を撫でて 「タカヒロも一緒に愛し合えばいいんだよ。 いなくなる訳じゃない。待つ事だ。」  僕は愛しい人を失った事がない。 初めての喪失感かもしれない。今まで愛しいと思う人がいなかった。引きこもっていたから出会いもなかった。かかわりがないから喪失もなかった。 「ミト、タカヒロを憎んでは駄目だよ。 ハジメの事を恨んでもいけない。 陰ながら二人を祝福してやろう。 きっといい形で帰って来るよ。」 ロジに抱かれて声をあげて泣いた。 ハジメとタカヒロがロジの家に住み着く。   半年後、ハジメの担当の事前調査で大型重機を使う現場での仕事は終わった。これからが発掘の本番だ。後は行政からの調査隊と専門家の細かい作業だ。海外からも調査に大勢の人が来ている。 「通訳として残ってくれないか?」 そんな誘いもあったが断って、一旦ロジの家に帰って来た。それまでも休みの日には帰って来たからタカヒロもミトに慣れて来ては、いたが。  帰って来ても二人は奥の和室で新婚生活のようだった。

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