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第93話 ハジメ

 ミトはロジの肩にすっぽりと収まって甘えて抱かれている。時々ロジの耳元で何か囁いているのが可愛らしい。ロジがミトの顎を持ち上げて口づける。なんだか素敵すぎて映画のワンシーンのようだ。  そんな二人をタカヒロがジッと見つめていた。 「ハジメ、オレじゃミトの代わりになれないね。 ミト、凄く綺麗だ。」 ハジメはタカに心を読まれたか、と焦った。 「タカ、何言ってるんだよ。」 手を握って肩を抱いた。 「キスしていいか?」 ハジメが優しく口づける。 「オレ、なんだかカッコ悪い。綺麗じゃない。 もう帰りたい。」  小鉄が寄ってきた。 「ハジメちゃん、髪伸びたわね。少し切りにいらっしゃい。あなたもどうぞ。」 タカも一緒に、と言ってくれた。 「来週行きます。水曜日あたり、空いてますか?」 「う、ん。ハジメちゃんならいつでも大丈夫。 予約しなくても、ねじ込むわ。」  小鉄に送られてイヴォークに乗り込んだ。 ずっと黙ったままのタカヒロが気になるが、面倒でもある。粋に遊んでるロジたちの前で、ウェットなタカヒロが少し重たい。 「ハジメ、お酒飲まないね。」 「大事な俺の嫁さんのためだよ。 事故って怪我させちゃいけないだろう。」 これもロジの受け売りだった。  ロジは自分の大切な人のために、時として禁欲的だ。それは徹底している。いつも言ってた。 「愛する人と愛し合うのが全てだ。 そのためになら、どんな我慢もするよ。」 この頃、その気持ちが少し理解できる。

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