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第95話 小鉄とハジメ

「小鉄さんは独り者なんですか? 恋人とかいないの?」 「ええ、一人が長い。気楽でいいわ。 金曜日はドラァグ・クイーンになって朝まで楽しく遊んでるし、気が合えば一晩の恋人だって見つかる。美容室の仕事もあるし。ドラァグ・クイーンは道楽よ。」 「決まったお相手はいないんだ?」 「ふふ、私は昔から好きな人がいるの。たまに抱いてもらえるから、それで満足なのよ。 決してその人の足手まといになりたくない。」 小鉄の意外な一途さに驚く。 「そういう距離感がいいなぁ。 俺息が詰まりそうなんだ。」 「彼はハジメちゃんを愛しすぎてるのね。 いいわね。愛されてるのは。」 「よくないよ。大事なものを失ってしまった。」 「ミトちゃんの事?ロジの事?あ、両方ね。 あなたがミトちゃんを連れて行った時、ロジャーはどうしてたと思う? 最初の三日間、死にそうな顔してた。  インドに行ってた一年近く、ロジはまったく学者だった。論文に打ち込んでた。あの性豪はナリを潜めてたわ。  ロジは意志が強いからお酒も飲まない、 セックスもミトちゃんとハジメちゃんしか相手にしない。人が変わったようだった。  あなた、随分勝手よね。」 ハジメは打ちのめされたような気がしていた。 わかっていた事だ。どこで間違えたのか。 宝物を自分から手放してしまった。 (タカヒロのせいではない。俺がタカヒロを選んだんだ。)  それでもこの喪失感は何だ?

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