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第106話 ミトが来た
一人の男を幸せにする事が出来ない。たった一人の愛する男を。
自分の事もしっかりやれていない。相変わらず無職だ。いつも短期間の仕事で結構な金を稼いで来た。通訳も肉体労働も性に合っている。ただ縛られるのが嫌いなのだ。
そうやって生きて来た。金に困った事はない。自分一人の事をやれていれば良かった。自分の好ましい生活。贅沢にも名声にも興味は無い。
好きなものだけを手に入れて、好きな事だけをやって来た。男を抱くのだって好きだ。好みのタイプなら積極的にもなる。恋した男を抱くために頑張る事は、ある。今まではそれで良かった。すぐに終わる恋で構わなかった。
人の人生を丸ごと引き受ける覚悟なんてした事は,無い。
「タカヒロ、俺といて幸せか?
辛い事の方が多いんじゃないか?」
タカヒロは何も言わずに抱きついて来た。
「先の事なんて考えないんじゃなかったの?
ハジメに抱かれる事がオレの望みの全て、だよ。
こんなオレは、飽きられちゃうよね。
お荷物になってる?」
タカヒロの唇を感じながら、激しいキスをした。
次の日、なんとミトが訪ねて来た。
可愛いミト。綺麗なミト。
「どうしたの?突然だね。」
「うん、僕ハジメ不足なんだ。
ハジメが抱いてくれないと治らない。」
タカヒロがギョッとしている。突然、直球を投げて来た。
「頭おかしいんじゃないの?
ここでオレたちが愛し合って暮らしてるのがわからないの?」
タカヒロはミトにキツイ言葉をぶつけた。
「やめろよ。ミトに酷い事,言うな!」
ミトは目に涙をいっぱい溜めて見つめる。
(なんて可愛いんだ。ミトを泣かせちゃいけないんだ。)
ドアを開けてロジが入って来た。息を切らしている。
「待ってろって言ったのに、先に行くから慌てたぞ。」
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