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第114話 ロジャー・五十嵐・リチャーズ
そんなミトの生い立ちも、ミトへの愛情に影響する事はない。
ロジの心に今も大切な存在がもう一人いる。
五月雨メイストーム。ロジの出身校はアメリカだったが、その時の同級生が五月雨だ。今は結婚して九十九里に住んでいる。ノンケだ。中学教師の五月雨は元教え子と結婚していた。23才も年下の琥珀。コスプレ好きなユニークな女の子。ミトも一緒に会いに行った事がある。
五月雨の事は今もロジの心の奥にそっとしまわれている。
現実に抱きしめて愛するのはミトだけだ。
長い付き合いの小鉄が驚いている。
「ロジャーは一人の人を溺愛するタイプだと思わなかったわ。ミトちゃんは運命の人、なのね。」
今のロジはミトしか目に入らないのか。本当に、ミトが殺して、と言ったら殺しに行きかねない危うさを感じる。そこまでじゃないだろう。まだ正気は保っている。
自分はこういう人間だ、と思い込んでいたことが、ある瞬間、ひっくり返ってしまう。人間なんて弱いものだ。
ロジは学問で系統立てて考える癖がある。彼なりの死生観だ。死は存在しない、という仮説の、逆説的な死、を思う。
死ぬ事が悲しいのは、それまでの関係性が全てリセットされてしまうからだろう。
ロジは悲しむべき人間関係などと、自分は無縁だと思ってきた。だから死など恐れるに足らず。親は二人でハワイで暮らしているがいつか死ぬ日が来るとは思う。
祖父のサー・リチャーズも死んでしまった。ロジを慈しみ愛し育てたのは、サー・デヴィット・リチャーズだ。ロジのために日本に住み、そばにいてくれた。貿易の仕事をしていた。
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