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第140話 衆道

 帰国したハジメは、もう人を愛せないのではないか、と思っていた。生き方が変わってしまった。  大学に戻り語学に打ち込んで、身体を鍛えた。特に恋人は作らず、海外でのキツい肉体労働に励んだ。親の目があるので日本での仕事は窮屈に感じられた。身体を酷使するような仕事ばかり選んだ。  単発の海外の仕事から戻ると、たまに麻布のゲイ・パーティに顔を出して、気に入った男がいれば買う。後腐れのない男娼しか相手にしない。  そんな生活を支える年配の男達がいた。"奥のご老人"と呼ばれている。 何の見返りも求めない年寄り達。みんなゲイの現役からは離れている。 「もう、年だから、いい男を鑑賞するだけで満足だ。」 そう言ってハジメのパトロンになってくれた。ハジメの父親の事も知っている。  彼らは衆道なのだ。ハジメの父親は普通に女性を娶りハジメが生まれたが、父親もまた衆道であった。 「母さんはそれでいいの? 親父は男を抱くんだろう!」  父の嗜好を知った高校生のハジメは、母が哀れでならなかった。母はいつも耐えているだけの存在か?父は子供を産んだ妻にもう指一本触れなかったらしい。  空閨を耐えているのか? 大人になったハジメは心配して父に思いをぶつけた。 「母さんを愛してないの?母さんが可哀想だよ。 女盛りなんだ。あんな綺麗な母さんをこの家に縛り付けて自分には男の愛人がいるなんて。」

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