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第198話 音楽
友也は小さい頃、ピアノを習わされていた。
母親の希望で、男がピアノを弾くのはかっこいい、というのだった。面白くなくても、母親には逆らわない。渋々習うピアノは好きになれなかった。何事も基本は大事。子供の頃のピアノレッスンは苦行だった。でも高校生になってバンドに誘われると、キーボードは重宝された。
友也は小学校の頃は
「ピアノなんて女のやるもんじゃん。」とイジメられていた。それで益々ピアノが嫌いになった。
高校に入ってバンドに誘われると楽譜がスラスラ読める友也は仲間から一目置かれた。
バンドの仲間に一人、気になる男がいた。彼はギターを弾いていた。
「ギターが恋人だ。抱いて寝てるよ。」
冗談でそんな事を言っていた。
友也の初恋だったかもしれない。髪を伸ばして一つに結んでいる。背が高くてゴツゴツした長い指を持っていた。
「ジェフ・ベックが好きなんだ。」
嬉しそうに言っていた。友也は心の中で彼の事をジェフ、と呼んだ。卒業する頃ジェフには彼女が出来て、二人同じ大学を受験したみたいだった。
卒業する時、スティーリー・ダンのCDを貰った。
「俺、この頃いつもこればかり聞いているんだ。
じゃあな。」
友也の淡い初恋はそこで終わった。
(僕は男が好きなのか?)という葛藤が残った。
そしてミトを知る。こんなに夢中になるなんて。
昼も夜も頭から離れない。
必死にガリ勉して大学に入った頃から、ピアノを触る事はなくなっていた。
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