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第205話 傑
一緒に暮らすようになってハジメの寂しさ、その危うさは薄れて行った。愛でいっぱいになったから。
ハジメがミトに心奪われていた時も、タカは愛してくれていると信じた。タカ自身、自分の都合のいいように受け止める事で精一杯だった。辛い事は見ないようにしていた。
「ハジメと傑さんは同じ年なの?」
「そう、36才だ。」
「私はまだ35才だよ。少し後に生まれたんだ。」
家の跡継ぎを欲していたハジメの父が、不本意ながら嫁を娶り、子供を作った頃、父の弟も自分の妻を妊娠させていた。
「跡取りはどちらでもいい。」
孫が男児だと知った祖父は、長男のハジメの父に家督を譲ったが、そんな経緯があったのだ。
近所に住むハジメと傑はまさしく双子のように
育った。ハジメが夭折しても傑がいる、という祖父に反発してハジメは育った。ハジメの憧れはマタギだった曽祖父だ。マタギからその腕の良さで武士になった曽祖父を尊敬して来た。
成長するにつれて傑のハジメへの想いは、強くなった。ずっと隠していたが。
「何の罰ゲームか、俺たち二人ともゲイなのさ。
結局、跡継ぎなんていう時代錯誤は俺たちでおしまいだ。」
「不思議だろ。でも私とハジメが愛し合う、なんていう三文芝居は、起こらなかったよ。」
「めでたしめでたし、だな。」
皮肉っぽくハジメが吐き捨てる。
タカは、傑がハジメを愛して、身を引いているのだ、と感じた。これは強力なライバル出現か?
「私たちは何も変わらないよ。
私は一介のバーテンダーでいいんだ。
タカさん、心配はいらない。」
寂しそうに傑は笑った。
「タカ、気にするな。傑と俺は、ただのいとこ同士だよ。」
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