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第208話 友也

 友也は逃げるのをやめた。卑怯な生き方はもうやめ、だ。  久しぶりに研究室に顔を出した。 尊や一部の人間は、友也がネットの書き込みで警察に事情を聞かれた事を知っていたが、ロジが緘口令を敷いて友也を守った。  友也は、今日ロジが大学に来ている事を知ったので会いに来たのだ。 「先生、いろいろご迷惑をおかけしました。」 「ああ、友也、また一緒にゼロポイントについて研究しよう。友也が復帰してくれて嬉しいよ。」 「いえ、先生にお話があるんです。実は大学を辞める事にしました。」 「もったいないな。どうしたんだ? 何も心配することはないぞ。」 「あの、僕、子供が出来たみたいなんです。」 そばにいた尊が驚いている。近くには他に誰もいないから、ロジは話を続けさせた。 「それで早く就職しなければならないんです。」 「そんな彼女がいたんだな。おめでとう、と言うべきか?ミトを好きだっていうから、君はそっちか?と思っていたんだよ。」 「ミトさんの事は大好きです。今も憧れています。ベッドの横にポスターを貼っていつも見ています。心はミトさんの事でいっぱいなはずなのに どうしてこんな事になったのか、自分でもわからないんです。」 「おいおい、しっかりしてくれ。 親御さんには話したのか?」  ロジはこんな時は普通の大人が言いそうな事を言う。大人として言わなければいけないと無理して常識的な事を言うのだ。 「友也の気持ちはもう、固まっているんだな。」 友也は不安そうな顔をした。

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