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第214話 バー高任
「いらっしゃい。ハジメ、一人?」
「おうっ。相変わらず客のいない店だな。」
「忙しいの、嫌いなんだよ。
おまえも来る時は続けて来るなぁ。
忘れてる時は何年も来ないのに。」
ハジメは傑を愛していた。それは自己愛のようなもの。そして近親憎悪に近い感情もある。
ハジメと傑、同じ方向を見ていただろうか?
正反対の行動が、むしろシンクロしてしまう。昔からそうだった。ハジメはインドに。傑はイギリスに。
傑は孤独を生きている。
一人ぼっちで寂しい道を歩いているような、いつもその肩に寂しさが付きまとう。
ハジメはいつも欲しいものに一直線。苦しみながらも決して孤独ではない。
タカはハジメに惹かれた。そして傑に心を痛めている。
傑の孤独。心を抉るその寂寥。
ハジメと傑、その両方に惹かれるのは何故?
タカは引き裂かれる。ハジメが
「俺だって寂しいよ。タカ、俺を見て!」
タカの迷いがわかるのだ。
「ついておいで、って言ってくれないの?」
(夢の中でタカに泣かれた。多分、俺の心が叫んでいる。)
一人でこの店に来た。
傑は看板の電気を落として、ドアに鍵をかけた。
店のソファに並んで座る。
「前にもこんな事、あったね。」
二人抱き合って激しい口づけをした。決してそれ以上には進まない。
「おまえは俺の鏡だから。」
ハジメの息を耳に感じながら、傑は思う。
(ハジメが生きている限り私は孤独なんだ。
でもそれは快感だ。絶対手に入らない男。
愛してる。)
ハジメの肩に額を乗せて下を向く。
「傑、いつも愛してる。誰を抱いていても、おまえは特別、だ。忘れないでくれ。」
「黙って。それ以上言わないで。
私はいつもここにいるから。
ドアを開ければ、ここに、いる。」
立ち上がってハジメは帰って行った。
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