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第215話 バー高任

 傑の店には、いろいろな訳ありの客が来る。馬鹿騒ぎしていても、みんな孤独を抱えている。そんな人間が集まって来る。傑が引き寄せてしまうのか。 「寂しいから抱いて欲しい。」 そんな事を言う客も多い。もちろん相手にはしない。洒脱な会話だけだ。たいていは話を聞いてあげる事で満足する。 「マスターはいつもニコニコしてはぐらかすよね。」 「そんな事ないよ。何?私に話してごらん。」  今日の客は六本木でホストをやっている。超の付くイケメンだ。クセの強いスコッチをロックでがぶ飲みしている。 「そんな飲み方なら、バーボンとかがいいかもしれない。」 「うん、マスターの言う事なら何でも聞くよ。 おすすめ、は?」 「エヴァン・ウィリアムスなんかどうかな? ブラック・ラベル。シングルバレルだよ。」 熟成期間が少し長い、男っぽいバーボンだ。 「アメリカのウヰスキー勧めるの? スコッチがメインだと思ったのに。」 「スコッチは優しく愛して欲しいんだ。 激しく抱くならバーボンだ。」 「テキーラとか、ラムとか、男っぽいのたくさんあるじゃん。」 「こいつには砂漠の風が吹いているんだよ。 ルイヴィルで作ってるからな。」 「ルイヴィルってどこ?」 「アメリカ、ケンタッキー州ルイヴィル。」 「行った事ある?」 「ないよ。」 「なぁんだ。じゃ、僕と一緒に行こう!」 「ははは、楽しそうだ。」

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