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第226話 円城寺
傑は、レオンの肩を抱いて、ロジに挨拶に来た。
「久しぶりです、ロジャー先生。
ミトは今夜も素敵だ。
妖精のようでクラクラするよ。」
「傑はいつも、そう言うね。そちらの方は、傑の恋人?」
「ええ、私の愛してやまない宝物だよ。」
ミトとレオンがしばし、見つめ合っている。
ミトが立ち上がってレオンをハグした。そして熱いキス。
その場にいた全員が見惚れてしまう美しい光景だった。
「こんな綺麗なキスシーン、どんな映画にも無いわね。」
小鉄が言った。
円城寺は何故か帰らず、大人しくグラスを口に運んでいる。いつもの強気は影を潜めてしまった。
(世の中は広い。俺はまだまだ、だな。)
この倶楽部で、自分の家のようにリラックスしている会員であろう客たちと、自分の格差を見せつけられた気がする。
いたたまれないが、せめてこのグラス一杯飲み干して帰るのが、円城寺の矜持、であった。
ロジが近づいて来て
「やあ、久しぶりだね。私を覚えているかな?」
「あ、ロジャー先生。そう言えば先生はゲイだって言ってましたね。ここゲイクラブでしたね。」
「君は学問から遠ざかってしまったのかい?
優秀な学生だったのに。」
円城寺隼人は何と難関で有名なT大でロジの学生だった。後の新進気鋭の物理学者も当時はまだ若く、駆け出しの講師だった頃のことだ。
ロジと円城寺、年はいくつもかわらない。
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