230 / 240
第230話 バー高任
この頃、礼於は傑の店を手伝っている。礼於のおかげで女性客が増えた。礼於は元々接客が好きなようだ。
傑のマンションに住み着いている。今まで住んでいた、円城寺が契約したマンションには帰りたくないらしい。
「あそこには何も必要な物は無いんだ。全部、お客さんが買ってくれた物だし、店用の服やアクセサリーも思い出したくない。」
「自分の大切な思い入れのある物はないのか?」
礼於の、物に執着しない物欲の無さ、に驚く。
こだわりがないのか?
礼於はホスト時代を忘れたい。接客して指名が増えて、いろいろな贈り物を貰った。それらは自分がどうしても欲しい物ではない。
だから物に執着がないらしい。高級時計、高価な宝石の入ったピアスや指輪ももう要らないと、言っている。
「ボクは何もない裸のボクを傑にあげたい。
このタトゥーに大切なメッセージは全部はいっているから。」
そう言って抱きついてくる。傑は愛しくてならない。
(指輪なら私が買ってやる。)
ずっとハジメだけを待っていた、今までの人生は何だったんだろう。いくら待っても手に入らない男。でも、それで諦めて礼於に乗り換えたのではない。
礼於に出会うために今まで生きてきた、とさえ思えるのだ。
ともだちにシェアしよう!