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第3話
「わしは朝比奈晋。お前の名は?」
朝比奈晋。
この男が、と、義三郎は思った。
同時に、この男は自分のような下士官の耳にも入るくらいの噂がある事を知らないのだろうか、とも思った。
「千夜義三郎です」
愛想よく話しかけてくる朝比奈少尉に義三郎は応えた。
「千夜か。千夜、お前、今までに目交いや衆道の経験はあるか?」
「…………」
そんな義三郎に、少尉は距離を詰めて問いかけてくる。
先刻感じたいい香りが呼吸する度に感じるのと睫毛の長さが分かるほどに接近され、相手をするというのはそういう事なのかと義三郎は思った。
「……衆道はありませんが、目交いは何度か……」
「そうか。ならば衆道ではわしが初めての相手という事になるのだな」
形の良い長い指が顎に触れ、少し上向きにさせられたかと思うといきなり接吻される。
「……っ……」
久しぶりの、そして男相手には初めての接吻。
義三郎の脳裏に、噂を聞きつけてわざわざ他所からやってきた娼婦から言われた言葉が蘇った。
『接吻はこれから交合う事、それ以外の一切を考えない事を誓い合う行為なの。覚えておいてね』
ただ繋がるだけの目交いしか知らなかった義三郎にとって、彼女との出会いは印象的だった。
「んン……っ……」
あの時以来の接吻。
義三郎は少尉の背中に腕を回してぐい、と引き寄せると、自ら舌を絡めていった。
それに対し、少尉はそれに応えながら上ずった声を出し、室内に水音と吐息が静かに響いていた。
「手馴れているな」
自分とは真逆の肌色の頬に赤みがさす。
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