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第10話

「千夜、待っていたぞ」 到着するなり抱きついてくる朝比奈少尉。 嬉しそうな顔をされ、義三郎は少し戸惑った。 昨日と同じようで少し異なる、子供のような無邪気な笑顔で迎えられたからだ。 「?どうした?そのような顔をして」 「申し訳ございません。このような事に慣れておりませんので」 「そうなのか?お前、何度か目交いをした事があると言っていたからこのような行為にも慣れているのだと思ったぞ。ならばわしが初めてという事だな」 そう言いながら、少尉は嬉しそうに微笑む。 「まぁ良い。それよりも荷物を片付けたら外に出よう。近くの川で湯が出ているところがあるのを見つけたのだが、湯加減がちょうどいいのだ」 「承知いたしました」 荷物と言っても義三郎は着替え以外の持ち物はなく、風呂敷に包んだそれを少尉がここに入れていいと言われた木箱に収めただけで片付けは終わった。 「では、参ろうか」 「はい」 歩いていける距離だと言われ、義三郎は少尉についていく。 山の中に築かれた駐屯地は自然豊かな場所で、故郷と似ている気がした。 川は山を15分ほど降りたところにあり、湯が湧いているところだけ池のようになっていた。 「凄いだろう?千夜」 手を入れてみると、少しぬるめだった。 熱い風呂が好きな義三郎だが、ぬるめの風呂は長く入れるという点で魅力を感じていた。

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