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第20話

「少尉殿……」 逢瀬を重ねていく中で、朝比奈少尉はその最中に義三郎に愛の言葉を伝えてくれるようになった。 『好きだ、お前が好きだ、愛しておる』 それに対し、義三郎はどうしていいか分からず答えを返す事が出来なかった。 『愛している』 初めて言われた言葉だった。 「…………」 脳裏に焼き付けられた言葉。 義三郎は墓石に刻まれた朝比奈少尉の名前を指でなぞりながら、その言葉をいつまでも忘れられない理由にようやく気がついた。 「おれも……おれも愛していました。貴方を……愛してしまっていました……」 ずっと、目を背けてきた。 過去に恋をした日の自分が思い出せないくらい、心の中が朝比奈少尉の事でいっぱいになっていった己がいる事を、受け入れずにいた。 二度と触れ合えなくなり、夢の中でしか会えなくなって、義三郎は初めて己の心と向き合った。 「朝比奈少尉殿……愛しています、おれは貴方を……」 今更もう遅い。 想いを伝えても、応えてくれる人はもういない。 突きつけられた現実に、義三郎は声を上げて泣きながら少尉の墓石に縋りついてしまっていた。 ……その様子を少し離れた場所から見ていた存在がいた事に全く気づかずに。

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