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第21話
朝比奈家に来てから、数年の時が流れていた。
幼かった勇も成長し、義三郎の背を追い越しそうなくらいの背丈になっていた。
顔も声も少尉に似ていると思う時もあったが、己の想いに気づいてから、義三郎は勇に愛した人……朝比奈少尉の姿を重ねる事は少なくなっていた。
「千夜さま、お願いがあります」
そんなある日の事。
士官学校の試験を無事に終えた勇が、合格発表の日の前夜に義三郎の部屋に来てこんな事を言った。
「わたしにですか?」
神妙な面持ちの勇に、義三郎はただならぬ内容なのかと身構える。
「そうです。あなた様にしか言えない事です」
「どのような事でしょうか」
「今から言うのは性急過ぎるかもしれませんが、僕が士官学校に合格しましたら千夜さまと旅に出たいのです」
「旅……ですか……」
脚の事を考えるとなかなか実現させるのは難しいのではないか、と義三郎は思いその事を勇に伝えてみたが、
「僕がお支えしますから、お願い致します」
と、全く退く事なく言われ、断る事が出来なかった。
翌日、勇が無事に合格した事を知った義三郎は、休暇願いを出していた。
今までそのような事がなかった為、上司から身体の具合でも悪いのかと心配された。
「故郷の家族から連絡がありまして……」
勇と旅に行くと言えば面倒臭い事になりそうだと思った義三郎は、家族が体調を崩しているから会いに行く為に休みたい、と嘘をついた。
3日の休みをもらった義三郎は、勇についていく形で旅に出る事になった。
場所は、朝比奈少尉と初めて出逢った駐屯地からほど近い町だった。
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