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第4話
小学校に入学したその日、俺は机に座って、初めて会う顔ぶれを、まるで異様なものでも見るように恐る恐る見渡していた。
「ここにいる皆さんが、これから6年間一緒にお勉強するお友達です」
そんな担任の言葉も現実感がなくて、ただ座らされたまま固まっていたのを覚えている。
休み時間になっても、俺はまるで机と一体化したかのように椅子に座り続け、周りの同級生を見つめていた。
トイレに立つ者、自ら積極的に席を立って、近くの同級生に話しかける者、席に座ったまま机の上の筆箱で遊ぶ者、自分と同じく座りっぱなしの者……
「ねえ、名前、何ていうの」
不意にそう声をかけられ、俺は初めて目の前に男の子が立っていることに気がついた。色白で痩せっぽちの少年だった。
小さな少年なのに、その声をかけてきた少年だけが、まるでこの周囲の世界から切り取られて今出現したかのような感覚があって、俺は大きな衝撃と印象を受けた。
「僕は、たかふじ あいっていうんだ」
あい……。女の子みたいと思いながら見上げていると、その藍という少年は、俺の名前をせがんだ。
「…ふかや、まさき」
「まさきくんていうんだ」
満面の笑みを浮かべるその少年は、そこだけがきらきらしているように見えた。そんな体験は初めてだったから、俺は藍からしばらく目を離せなかった。
それから俺らは、頻繁に遊ぶようになった。
いつか、氏名の漢字の話になって、
「柾くんて、僕と同じ一文字なんだね」
そんな小さな共通点がいくつもあって、俺たちはどんどん親しくなっていった。
俺には、秘密基地があった。
基地、と言っても、そんな大それたものではなくて、家から少し歩いたところの藪を自分なりに踏みならした単なる草むらだったが、それでも、その秘密基地に入ると外からは中が見えなくなって、別世界のようだと自分では誇らしく感じていた。
当時は、少しでも快適に過ごせるようにと、いろいろと工夫をして座る場所などを創ったものだった。
別に親や住まう家に不満があったわけじゃないが、自分だけの場所、自分だけが知る場所が、少し偉くなったような、大人になったような気持ちを感じられて貴重だった。
「秘密基地、あるんだ」
「えっ?」
近くの公園で遊んでいた時、俺は藍にぽつりと呟いた。
その日は夏休みに入る少し前の日の放課後で、門限の時間が迫る中、夕暮れを見ていたら、秘密基地は夕陽が差してどんな色だろうかと知りたくなったのだ。
「行く? 秘密基地」
秘密基地、その言葉を聞いた瞬間、藍はこれ以上ないほど眼をきらめかせ、顔いっぱいの笑顔になって、大きく頷いた。
「行く! 柾くん、秘密基地があるんだ」
「ないしょだぞ!」
秘密基地に向かう道すがら、まるで極秘裏のミッションに向かうスパイのような緊張を感じた。この道中すら秘密なのだと思うと、戦隊もののヒーローになったような気分だった。
これは、2人しか知らない最高機密だと、そんなことを考えて、そこらの子供とは違うんだという特別感に浸っていた。
藪の前に立った。
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